「寝たきり予防のための三世代参加型健診・健康教育モデル事業」

1. 概要
 超高齢化社会の到来が叫ばれて久しいが、現実的には、わが国の65歳以上の人口比率が20%に到達するのも間も なくである。同時に2003年の人口動態統計での出生率は1.29と衝撃的な数字が発表されたばかりであり、このよ うな少子高齢化が各界へもたらす影響ははかり知れないが、医療・福祉への影響が最も大きいことはいうまでも ない。そのため、高齢者の社会全体の役割の見直しが求められることから、高齢者をより健康にするための健診 を含めた予防事業の重要性が多々、指摘されているところである。寝たきり予防に対する健診など、一部、その 目的を果たしている事業もあるが、高齢者の生活の質の向上が、社会全体における役割を増すことにまで達成さ れたとは言い難い。
 一方では、年少者にとってもこの半世紀はもっとも社会上の役割が増加することから、年少者への教育の充実 は、少子化の対策上においても重要な問題である。この点、お年寄りと若者の触れ合いあるいは交流として日本 各地で多くのイベントが開催されており、高齢者の質の向上に役立っているばかりか、昨今において多々、顕在 化しつつある、いわゆる情緒不安定な若者に対する情操教育の一部にもなっている。本モデル事業は、このよう な高齢者と年少者の触れ合いを、予防を中心とした保健行動、特に健康意識において両者の享有を目指すことで 、将来の高齢者と年少者が一体となった社会を築くことを目的としている。このため、実際の健診と健康教育に おいて、三世代が参加することで、高齢者の寝たきりを予防するのと同時に、年少者の情操教育さらには将来の 生活習慣病を予防するための健康教育を実施するまったく新しい試みである(図1参照)。


図1「寝たきり予防のための三世代参加型健診・健康教育モデル事業」 の目的と概略



2. 本研究の意義・特色と予想される効果
1) 従来の老人健康診査(老健)に加え、運動機能検査を取り入れることで、高齢者の寝たきりを予防する。
2) 高齢者が小中学生とともに、健診を受け、さらには運動療法などの事後措置、あるいは社会活動を共同実施す ることで、高齢者の健康意識が向上するばかりか、社会に対する高齢者の固有の役割において積極的な関わりを持 つ動機となる。
3) 小中学生が検診および、健診後の運動療法を実施することで、保健行動に関する意識を向上させることができ る上で健康教育上の意義が大きい。将来の家族内での高齢者介護率の改善等が期待される。
4) 小中学生が高齢者と触れ合うことで、情緒の安定など情操教育に役立つ。したがって、将来の非行率の低下ば かりでなく、多くの責任ある年少者が期待できることから、究極的には少子化対策につながる。
5) 運動機能検査を中心とした健診、事後措置は医療サイドあるいは養護教諭の指導のもとでは、その実施は、小 中学生にとっても容易であり、かつ、その評価も学習することができることに本事業の特色がある。


3. 実施計画     日程表
1) 対象
 高知県佐賀町において、60歳以上の施設に入所、入院していない高齢者、約500人を対象とする。健診から、事後 措置に至るシステムの概略を図2に示す。
2) 健診
 (1) 一次健診:医師サイドによる老人保健法に基づく老健に加え、下記の内容からなる一次運動機能検査を小中学生 (約300人)によって実施する。ただし、小中学生による健診実施に際しては、その実施意義および実施要綱について は詳細に養護教諭などの担当者から教育を受ける。
  [1] 10M歩行速度 (m/s)…運動能力
  [2] Up & Go test (s)…運動能力+バランス+方向転換能力
  [3] つぎ足歩行(歩)…バランス
  [4] 単脚直立時間 (s)…バランス
  [5] 握力測定 (kg)…筋力
  [6] 体脂肪率測定 (%)
 (2) 二次健診:一次運動機能検査による判定を、医師サイドの指導のもと、小中学生が実施し、下記に示す二次運動機 能健診を整形外科医を中心に実施する。この手続きによって、一次運動機能検査の正確性も評価が可能になる。
  [1] 10 m歩行速度 (m/s)…運動能力
  [2] Up & Go test (s)…運動能力+バランス+方向転換能力
  [3] つぎ足歩行(歩)…バランス
  [4] 単脚直立時間 (s)…バランス
  [5] 握力測定 (kg)…筋力
  [6] 腸腰筋・大腿四頭筋の筋力測定
  [7] 体脂肪率測定 (%)
  [8] 動脈硬化度測定
  [9] 骨密度測定
3) 健診後の事後措置 上記の二次健診によって、正常、要観察、要医療と判定される。
 (1) 正常者:今後も高齢者がこの状態を維持し、さらにはより、高齢者の役割が増加するために、クラブや趣味などの 社会的活動の参加を積極的に呼びかけ、その活動は、小中学生とともに行う。
 (2) 要観察者:運動機能検査あるいは老健によって要観察とされた者については、下記の積極的な運動療法を医療サイド の指導のもと、小中学生が行う。また、健康教育については、医療サイドが中心となり、将来の寝たきりを予防する。
  [1] ストレッチ(ウォーミングアップ・クールダウン)指導
  [2] 腸腰筋・大腿四頭筋訓練…セラバンド訓練(リアルタイム積分形を併用)
  [3] 高転倒リスク群…乗馬ロボット訓練
  [4] 低転倒リスク群…ゲームを用いた運動・バランス・俊敏性訓練
 (3) 要医療者:医療サイドのもとで、医療あるいは介護を行うが、小中学生も参加して、特に、話しかけや、身の回りの 世話などの社会的リハビリなどの介護活動を中心として、将来の寝たきりを予防する。
4) 本事業の評価
 (1) 個人の評価:健診受診者および事後措置実施者を、その対照と、高齢者の諸機能を比較する。さらには、本事業に参加 する小中学生を、心理的諸指標で評価することによってし、本事業の有効性を評価する。
 (2) 全体の評価:町全体の寝たきり老人数の低下をはじめとする健康指標、QOL、医療費などの医療・保健・福祉指標に よって本事業を評価する。さらには、町に住む年少者の非行率などを指標とした評価を行う。


図2「寝たきり予防のための三世代参加型健診・健康教育モデル事業」の実施計画



4. 事業実施機関
高知県佐賀町(池本明生町長:http://www.saga-c.jp/
高知大学医学部運動機能学教室(谷俊一教授: http://www.kochi-ms.ac.jp/~fm_ortop/index.htm
高知大学医学部環境医学教室(中村裕之教授: http://www.kochi-ms.ac.jp/~ff_evrnm/index.htm
金沢大学大学院医学系研究科環境生態医学教室(荻野景規教授: http://web.kanazawa-u.ac.jp/~med14/index.htm


5. 連絡先
中村裕之 〒783-8505 高知県南国市岡豊町小蓮
高知大学医学部環境医学教室( http://www.kochi-ms.ac.jp/~ff_evrnm/index.htm
TEL:088-880-2405  FAX:088-880-2407  e-mail:hiro-n@po.incl.ne.jp



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