高知大学 農林海洋科学部 大学院 総合人間自然科学研究科農学専攻

陸と海からの新提案! ~高知大学発の先端研究~


海の微細藻類が「次世代バイオ燃料」に

化石燃料に代わる再生可能エネルギーの開発が急がれる中、新たな主役として注目が集まっているのが「微細藻類(=植物プランクトン)」です。その第一線で活躍する足立真佐雄教授と水族環境学研究室にお話を伺いました。


足立 真佐雄 教授

[専門領域]水族環境学、海洋微生物学、
マリンバイオテクノロジー
[研究テーマ]
 ●バイオ燃料等の有用物質を高生産する
  植物プランクトンの創生
 ●寄植物プランクトンへの高効率な革新的遺伝子
  導入法の開発
 ●熱帯・亜熱帯性魚毒の原因となる微細藻類の
  生理・生態解明 など



大きなポテンシャルを秘めた微細藻類

 資源の枯渇や地球温暖化への対策が急がれる中、持続可能かつCO2を排出しない再生可能エネルギーの最有力候補として、バイオ燃料が脚光を浴びています。バイオ燃料にはトウモロコシやサトウキビなど様々な生物資源が使われていますが、実はこれまでの陸上作物を大きく上回る生産効率を持つのが、微細藻類(=植物プランクトン)です。
 微細藻類は単位面積あたりの油の生産量が多いだけでなく、陸上作物が冬場生産できないのに比べ、様々な気温に適した種がいるため季節によって種を変えることで年間を通じて持続的な生産が可能です。非常に効率よく有用物質が生産できる上に、食料利用とも競合しませんし、さらに海の微細藻類を利用すれば砂漠化が進む内陸部の飲み水や農業用水を奪うこともありません。


より優れた種を探索する"プランクトンハンター"

 淡水資源に対して海の資源は99対1以上と圧倒的に海の方が豊富で、ほとんど無尽蔵とも言われています。そこから未だ見つかってない有用な種を探索するのが、我々の研究の一つ目の柱です。いうなれば、"植物プランクトンハンター"。 海にはいろいろな藻がいて、それぞれの油の作る量は違います。「器(うつわ)」と僕らは呼んでいますが、少しでも多く油を生産する「器」を探すことが、成功への鍵となります。
 高知の海は非常に多様性に富んでおり、まさに生物資源の宝庫です。この有利なフィールドを活かして無限の可能性に挑戦しています。

研究室の様子

研究室では採取してきた様々な微細藻類を培養している

世界トップレベルの遺伝子改良技術で、
さらに多くの油を生産

 二つ目の柱は、遺伝子改良技術の開発です。
 もともとあまり油を作らない藻にたくさんの油を作らせたい場合、油を作る遺伝子や、それを助ける働きをする遺伝子をその「器」に組み込みます。しかしこの時、遺伝子だけで入れてもその性質は発現しません。遺伝子のスイッチの役割を果たす「プロモーター」を一緒に組み込んでやることが必要です。
 我々の研究室では2011年、世界で初めて海産微細藻類の1種である珪藻に感染するウィルスから、これまでにない非常に強力なプロモーターを取り出すことに成功しました。
 これは、国の機関である水産研究・教育機構 瀬戸内海区水産研究所と高知大学が、共同研究でタッグを組んだことから成果に結びついたもの。2011年と2012年に、日本国内とアメリカ、EU、中国などでの国際特許を取得し、現在、東京大学発のベンチャー企業ユーグレナや東京大学と連携してこのプロモーターを活用したバイオ燃料生産実現に向けた研究を進めています。

脂質を細胞内に蓄積した海産珪藻

脂質を細胞内に蓄積した海産珪藻
(緑色に染色された部分が蓄積された脂質を表す)

研究詳細 微細藻類によるバイオ燃料生産

バイオ燃料だけでなく、医薬品やサプリメントにも

 プロモーターに関してもう少し紹介すると、例えばインフルエンザを思い浮かべてもらうとわかりやすいのですが、ウィルスは自分自身をどんどんコピーしていく力、遺伝子を働かせる力が強いんですね。これまでもウィルス由来のプロモーターは能力が高いことがわかっており、例えば現在、世界中で農作物の遺伝子組み変えに使われているプロモーターも、カリフラワーに感染するウィルス由来のものです。しかし、海のプランクトンの1種である珪藻に感染するウィルスからプロモーターをとらえたことは、今まで一例もありませんでした。つまり、高知大学のこの発見は海産微細藻類の持つポテンシャルの一端を証明したことにもなります。
 さらなる展開の一つとして、我々の発見したプロモーターが他の遺伝子のスイッチとして応用できるかどうかを調べる研究も進んでいます。例えばワクチンを作らせたり、あるいはサプリメントを作らせたりする遺伝子につないでその生産性を見ていて、既に一部データが取れています。
 バイオ燃料だけでなく医薬や健康など、様々な分野のものづくりに貢献していければうれしいですね。


学生が研究チームの中核を担う!

 我々の研究室では、学部生の3分の2ほどが大学院に進学します。様々なテーマを並行して進めていく中、研究の中で学生が果たす役割はとても大きく、先述の遺伝子改良技術の特許なども出願人には当時在籍していた学生が名を連ねています。
 他の研究機関や大学との共同研究も多いので、学生たちは学外で高度な学びを得る機会も多くあります。例えば修士学生のなかには、共同研究先の東京大学で8日間ほど油の抽出方法などの研修を受けた学生もいます。
 また、学会発表も重要な成長のチャンスです。特にうちの研究室では修士学生にはできる限り国際学会を経験してもらっています。学会発表の練習はマンツーマンで10回以上行い、その時はかなり厳しく指導を入れるので、学生はとても大変だろうし、我々教員も手間がかかって大変です(笑)。けれど、修士課程が終わる頃にはみんな随分と成長してくれるんですね。実力も自信もついて大手企業や研究機関に内定し、羽ばたいていく先輩たちを見て、「厳しそうだけど自分も大学院に行こう!」と後輩たちが後に続く、いい学びの連鎖も生まれています。

学生研究 海のウイルスから、
最強プロモーターを獲得!

「学生の活躍なくして、これまでの研究成果はない」と言う足立先生。師弟の絆も強い

毒化の原因生物を探る研究も!
「アオブダイ中毒の毒化機構の解明」


 温暖化の影響が広がる日本の海で、近年、魚毒性中毒や貝毒が問題となっています。これは、魚や貝が有毒プランクトンを食べることで起こると言われており、魚ではイシガキダイやハタ類などの魚で起こることが知られています。我々はその一つ、アオブダイ中毒に関して新たな研究を進めています。
 もともとアオブダイはある有毒プランクトンを食べて毒化すると言われていましたが、共同研究先である水産研究・教育機構 中央水産研究所の調査によってその定説が覆され、研究が振り出しに戻りました。今はアオブダイのエサ生物について、一から調べ直しているところです。
 このアオブダイ、喉に咽頭歯という歯があり、食べたものを細かくすりつぶして飲み込みます。なので、お腹の中を開いて見ても何を食べているのかわかりません。そこで、スムージー状になっている内容物からDNAを取り出し、遺伝子の塩基配列を高速で読み出せる次世代シーケンサーを使ってエサ生物を特定しようとしています。
 原因生物か解明されれば、それが発生する時期や場所を避けることで、魚を安全に食べられます。食の安心安全と海洋環境の保全に貢献できる研究です。

研究詳細 魚毒性中毒・貝毒 アオブダイの検体を解剖する様子

アオブダイの検体は、協力先の漁港から大学に送られてくる

アオブダイの検体を解剖する様子

お腹を割き、内容物を取り出す。骨が固いため、枝切バサミを使用

アオブダイの検体を解剖する様子

これまで約50体の検体を調べた

研究室はグローバル!
切磋琢磨して世界で活躍を


 「地球温暖化」や「海洋環境保全」、「未利用資源の有効活用」、「遺伝子改良技術」など、多彩なキーワードで研究を展開する水族環境学研究室には、国内はもとより世界各国から学生や研究員が集まってきます。特に2018年度以降は、インドネシアからの留学生やイタリアで学位をとったインド国籍の研究員など、国際色豊かなメンバーも加わり、新たなスタートを切ります。
 逆に、本学の学士、修士、博士課程を経て当研究室で活躍してくれていた研究員が、この春からニュージーランドの研究所の研究員として巣立っていくなど、研究だけでなく人材もグローバルに羽ばたいています。
 人類に有用な微細藻類を地球環境にやさしく生産することに興味ある学生の皆さん、ぜひ高知に来て我々の研究室で一緒に研究に取り組みましょう!

International Conference Molecular Life of Diatomsでの集合写真

2017年7月、神戸で開催された国際学会
International Conference "Molecular Life of Diatoms" での集合写真