高知大学 農林海洋科学部 大学院 総合人間自然科学研究科農学専攻

新世代技術・維新! ~世界のニーズに高知から応える~


食品業界の最前線に実用技術を届ける

食の安全・安心志向がますます高まる中、食品の生産・加工・流通の現場では、消費者の信頼確保に向けた実用的かつ導入しやすい次世代技術が求められています。その開発に取り組む「食料生産プロセス学研究室」をレポートしました!


河野俊夫 教授
[専門領域]食料生産プロセス学
[研究テーマ]
 ●食品のすり替え偽装防止技術
 ●食品の非破壊・非接触での品質評価技術
 ●糖尿病患者向け非常食の製造技術と
  その品質評価法 など

柏野由加里
農学専攻1年 広島県出身



近赤外マッピングスキャンによる 食用卵の個別消費期限推定法に 関する研究


光センシングを応用した新技術

河野 「鶏卵」は、日本人にとって最も身近な食材の一つです。従来、その新鮮度は産卵からの経過日数によって一律に決めるか、もしくは出荷パックの一部をサンプリングして割卵検査し、母数全体の新鮮度を推定してきました。しかし、卵の状態は個々に異なるため、一律設定した賞味期限ではまだ食べられる卵も廃棄となり、食品ロスの一因となっています。
 また、産卵したてでも既に食べられない品質の卵もあり、それに対しては可視光線による内部検査や塩水を使った比重検査が用いられてきましたが、一部の品質しか検査できないことや、時間がかかるといった課題がありました。
 そこで私たちの研究チームでは、養鶏場で採卵された一つひとつの卵の将来的な品質変化を、光センシングによって非破壊で予測・推定するコア(Core)技術を開発しました。

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柏野 具体的には、卵の表面のある部分に光を照射して、その反射光に含まれる近赤外スペクトルを測定し、特徴的な波長を見出して鮮度を推定します。私は、測定の一部を担当しました。
 この技術によって、1)鶏卵の鮮度指数である「ハウユニット(HU)」や、2)タンパク質に対する菌の繁殖状況を知る指数の一つ、「卵内ATP」を割卵せずに推定できます。

河野 つまり、卵一つひとつの実質的な賞味期限の選別が可能になり、現在よりも鮮度や品質の揃った、安全・安心な卵パックを消費者に届けられると期待されています。


研究はもちろん、様々なチャンスがある

柏野 私は今回この研究に携わったことで、日本食品保蔵科学会にも参加させてもらいました。成果に対して論文賞もいただき、貴重な経験を得ることができて、先生には本当に感謝しています。

河野 また、彼女は今年度、日本政府が推進する国際交流事業「カケハシ・プロジェクト」の高知大学代表団の一人として、アメリカに派遣されました。この事業は、将来、国際的な活躍が期待し得る日本と北米それぞれの優秀な人材の交流を図ることを目的としたもので、農学専攻からは、語学力もある彼女が選ばれました。

柏野 理系文系を問わず、様々な分野の学生が交流したので、とても刺激を受けましたね。 大学院は、自分のやりたいことを探しに行くとか、自分で考えて行動するとか、そういう力が養われる場だと思います。特に高知大学は、そういったチャンスがたくさんあると感じています。



小麦粉の一部を不溶性食物繊維に置換したパンの研究


よりよい食生活の実現を目指して

柏野 最近、食の欧米化や食習慣の変化によって、糖尿病など成人病患者の増加が問題になっています。糖尿病対策や、カロリー制限対策を目的とした様々な機能性食品に注目が集まる中、特に期待されているのが不溶性食物繊維です。
 不溶性食物繊維は、整腸作用や血糖値の上昇抑制作用、発がん物質の吸着・排出作用など、多くの機能性を備えているとされ、カロリーがほぼないという特徴があります。そこで私は、小麦粉の一部を不溶性食物繊維で置換したパンを試作し、それが製パン性に及ぼす影響について検討しました。

柏野 このスライドに示した図は、実際に作ったパンの写真と、比容積(パンの膨らみ)のグラフです。不溶性食物繊維に置換した量が多いほど、パンの比容積は小さくなります。一般的に消費者が「膨らみが十分ある」と感じるボーダーラインから見ると、15%の置換までなら消費者に受け入れられるのではないかという結果が得られました。他にもパンの硬さ、噛みごたえ、切ったときの断面の気泡の様子、発酵力など多角的な視点での検討が必要ですが、今回は「製パン性」を明らかにすることを第一の目的として研究しました。また、今後はパン以外の食材への不溶性食物繊維の応用について検討する予定です。



食品材料に混在する異物の
近赤外分光法による
非接触種類推定法に関する研究


消費者の安全と食の品質を支える

河野 食品への異物混入は、消費者への健康被害はもちろん、自主回収や一時的生産中止など企業にも多大な損失をもたらします。近年は、メディア報道の過熱やネットでの情報拡散によって消費者が企業への不信を募らせた結果、株価にまで影響を与えるケースも見られます。つまり、異物混入対策は、消費者の安全を守ると同時に企業のリスクマネジメントとしても大変重要な課題と言えます。
 従来の異物検出方法としては、金属にはX線が有効ですが、ビニールや生物由来の異物は発見できません。また中赤外分光法は、成分同定には有効ですが、水に吸収されやすく、水を多量に含む食品に混入する異物の検出は困難です。他にはNMRやMRIといった核磁気共鳴法もありますが、こちらは装置そのものが高価過ぎ、食品の生産現場への導入は非現実的です。そこで私達が注目したのが、近赤外分光法。

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 波長域Ca.800nm~2,500nmにある、可視光と中赤外光とに挟まれた、この特殊な光を応用して異物検出の新しい手法の開発に、いま取り組んでいます。
 まだ研究は基礎段階ですが、様々な異物サンプルを測定・解析して得られたスペクトルの特徴から、今後はパターン認識のモデルを作成する必要があります。さらに、他大学や企業と連携し、実用化に向けた応用研究もスタートする予定。この技術の進展によって、国民の食の安全・安心を確保していきたいと考えています。「脳科学」が注目されている昨今ですが、併せて「農科学」にも関心をもってもらえればと思います。


研究室の学生と