高知大学 農林海洋科学部 大学院 総合人間自然科学研究科農学専攻

新世代技術・維新! ~世界のニーズに高知から応える~


高齢者の食のQOLに貢献する

今や、65歳以上人口が総人口の4分の1を占める現代日本。今後さらに進む高齢化は、食への新たなニーズや課題をもたらしています。その一つが、介護食や療養食。これに対し、食品加工の段階ではなく、一次生産の場から課題解決を目指す「植物育種学研究室」をレポートしました!


村井正之 教授
[専門領域]植物育種学
[研究テーマ]
 ●老人食用、介護食用の軟飯に適した
  稲品種の開発
 ●地球温暖化に対処するための極晩
  生稲品種の開発
 ●良食味・極早生・短稈稲品種の開発 など

上向井美佐
農学専攻1年 兵庫県出身



介護食の品質を向上し、高齢化社会を幸せに

村井 現在、日本で生産されているお米のほとんどは、もちもち感や粘り気の強いコシヒカリ系です。これは、市場価値を高めるために、粘り気の強いごはんを好む日本人の嗜好に合わせて品種改良が重ねられてきた結果です。
 このお米の粘り気を左右しているのが、アミロースとアミロペクチン。白米の成分の8割を占めるデンプンを構成する2種類の高分子化合物です。アミロースは直鎖状につながった構造、アミロペクチンは枝分かれした構造をしており、直鎖構造のアミロースの比率が高いと、整列して粘りの少ないお米に、枝分かれしてよく絡み合うアミロペクチンが多いと、もちもちしたお米になります。

上向井 高齢化が加速する今の日本では、療養や介護の現場などで、誤嚥性肺炎や絶息による致死の低減のために介護食が提供されています。介護食である重湯・全粥・軟飯などは加水量を増やして炊飯しますが、もともと粘り気の強いお米では、誤嚥が起こったり、米粒がつぶれて見た目が悪く食欲の低下につながったりという課題がありました。
 そこで、軟飯に適した水稲品種の育成を目的として、本研究室で開発された「村井79号」の食味官能試験やアミロース含有率の測定試験を行ったのが、この研究です。


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村井 私どもの育種した「村井79号」は、そのアミロース含有率が通常のコシヒカリよりも約5%高く、粘りや米粒同士の癒着が少ないことを特徴としています。また、ヒノヒカリと同程度の良食味であり、単位面積当りの収量が高い、極晩生であるといった栽培に適した特徴もあわせ持っています。

上向井 食味官能試験では、20~60代の男女8~13人のパネリストに、「ヒノヒカリ」「村井79号」、姉妹系統である「531および「533」の軟飯を試食してもらい、「味」「香り」「硬さ」「粘り」「外観」「総合」の6項目の評価結果を、分散分析および信頼区間による比較によって解析を行いました。
 結果、村井79号は介護食用の軟飯に適した品種候補として有望であるという考察を得ることができました。


従来にない極多収の村井79号(左)
(右はヒノヒカリ)

村井 現在この村井79号は、高知県下で数件の農家の方が試験的に栽培し、病院にも一部流通しています。今後はさらなる品種改良や周知に取り組み、四国・九州など温暖な地域における新たな高付加価値米として、市場開拓につなげていきたいと考えています。

上向井 このテーマは、高齢者の健康状態に配慮し、且つ食のQOLを高める大きな可能性を持っています。私の実家にも要介護の祖母がいますが、入院中にあまりご飯を食べてくれず心配しました。祖母のような高齢の方にも、食べる楽しみを感じてもらえるようなお米を届けられたらと思っています。


アジアからの留学生と共に学ぶ

村井 高知大学では、当研究室の他にも西南暖地のフィールドを活かした様々な実践的研究が行われていますが、実はこれらの研究は、日本だけでなく東南アジアやアフリカといった地域の農業や環境課題にも応用が期待されています。
 海外からの留学生も非常に多く、特に大学院では、日本人学生と留学生が交流しながら研究に取り組んでいます。

上向井 当研究室でも2名の留学生が学んでおり、英語を中心に、日本語と彼らの母国語のネパール語でいつも学び合っています。他の研究室にもいろんな国からの留学生がいて、毎日が留学しているような気分です。


村井 留学生たちは研究への意識も高く、修士学生とは互いにいい切磋琢磨ができています。また、日本以外の国の農業や産業の現状、文化などを知ることで、グルーバルな視点を養うことにもつながります。勉強だけでなく、いろいろな角度から自分を成長させていける環境と言えるのではないでしょうか。


食糧危機に対処するための極多収稲品種の開発


良食味・極早生・短稈 稲品種の開発


イネの収量性に関する遺伝子の作用

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パンやケーキの原料とするための
米粉用の多収稲品種の開発


観賞用 稲品種の開発