高知大学農林海洋科学部・大学院総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

学び360度! 先輩たちの声
大学での学び方や先生との関係、農学生生活、サークルなどなど……。
高校とは違う大学でのリアルな生活を先輩たちに聞いてみました。

特集記事−Feature article

今こそ「暖地」を科学せよ

世界の飢餓をネリカ米で解決したい

有田直矢

修士2年(2015年度)

ネリカ米(NERICA)との出会い

僕は高校3年生の時、ホームステイしたアメリカで食べ物をすぐ捨てる文化に衝撃を受け、世界の食糧事情に興味を持ちました。 裕福な国がある一方で飢餓に苦しんでいる人もたくさんいる、その問題を解決したいと思い、ネットで「飢餓」「アフリカ」・・・と検索していくと、ネリカ米(NERICA)という存在を発見。僕は、高知大学に進学してから学部4年、青年海外協力隊2年、そして現在の大学院に至るまで、このネリカ米の研究・栽培の実践に関わっています。

天水陸稲NERICAの試験栽培(ガボン共和国)

研究結果を確かめたいと、アフリカ・ガボンへ

ネリカ米とは、アフリカの食糧事情改善を目的に開発された稲で、高収量性、耐乾燥性、耐病虫性などを併せ持つ新しい品種の米です。 学部時代、僕は大学の圃場で陸稲のネリカ米を栽培し、耐乾燥性を評価する研究を行っていました。その中で、実はネリカ米よりも日本の米のほうが乾燥に強いのではないか?と思われる結果が出て、どうしても一度、現場に行って確かめてみたいという思いが強くなりました。そこで青年海外協力隊(JICA)の募集に応募し、学部卒業とともにアフリカ・ガボンに渡りました。

ガボンでは、現地の人たちと一緒にネリカ米の試験栽培に従事。最初の1年間は言葉を覚えることと、ガボンという国を環境だけでなく文化も含めて理解していくのに精一杯でしたが、2年目に入るとやっと言葉もわかってきて、自分からいろいろ発信して農作業をしていけるようになりました。

 

NERICAの試験栽培の様子

JICA活動の傍ら、日本の米も栽培

現地で確かめてみたいと思っていた日本の米については、持参したものをネリカ米と一緒に育ててみたのですが、日本の米はすぐに穂が出てしまい、すごく小さな個体にしかなりませんでした。これはおそらく、日照時間の違いが関係していると思われます。日本の米は日が短くなると穂ができる品種が多いのですが、熱帯であるアフリカは日本より日照時間が短いため、その環境の違いによって早く穂が出たと推測しています。

海外での経験を、大学院で活かす

ガボンでの2年間、ネリカ米の試験栽培に取り組む日々の中で、僕は現地で働く人たちのストライキなども体験しました。ストライキの原因は給料や待遇面といった労働問題でしたが、作業する人が誰も来ない日には仕事がはかどらず、つらい思いをしました。そんな中、実感したのは自分の力不足です。試験栽培の組み立てなどを自分がもっとしっかりできれば、今以上に現地の人の力になれるし、自分もしんどい思いをしなくてすむと思いました。それが、大学院進学を決意した最大の理由です。

社会人入試を経て高知大学に戻った今、僕はとても充実した時間を過ごしています。今の自分に不足している知識や技術を修得するという新たな目標があるし、思っていた以上に先生と議論できる時間も多く、研究やものの考え方などを先生と対等に話し合うことができています。

現在、僕が取り組んでいるのは、ネリカ米など陸稲の水利用効率の向上に関する研究です。中でも特に、根系の発達に注目して実験を行っています。将来は、開発コンサルタント企業などで、アフリカでの作物栽培プロジェクトに関わっていくのが夢。一方で、青年海外協力隊とかで得た経験やアフリカの食糧事情などを、高校の教員として教えていきたいという思いも持っています。
これからも、自分の"やりたい"という気持ちに正直に、貪欲に、研究や物事に取り組んでいきたいと思います。

温室管理されたNERICAのファイトトロン実験(大学内の温室にて)

 

【教員より一言:宮崎教授】
有田くんは、最初から明確な目標を示して大学院に進学してきました。「2年間の青年海外協力隊の経験で感じた自分の足りないところを学び直したい」・・・実はこれが、大学院本来の学びの姿です。
彼は今、学会での発表などを行いながらガボンを振り返り、それが自分を見つめ直す機会になっています。
字とは経験から学びます。もっといえば、失敗から学ぶのです。
テクニックは何とかなっても、思考や物事への向き合い方は失敗からしか学べなかったりします。そういう経験のある人に、ぜひ高知大学大学院に進学してきてほしいと思いますね。