高知大学農林海洋科学部・大学院総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

学び360度! 先輩たちの声
大学での学び方や先生との関係、農学生生活、サークルなどなど……。
高校とは違う大学でのリアルな生活を先輩たちに聞いてみました。

大学院インタビュー

セメント硬化の阻害要因を探る

川﨑順風

修士2年(2016年度)

軟弱な泥炭地帯の地盤改良を目指して

軟弱な地盤を改良する工法の一つに、現場の土にセメント系の固化材を混ぜ合わせて地盤を硬くするセメント改良工法があります。しかし、土性によっては既存の固化材で十分に固まらない地盤もあり、僕はその一つである泥炭に関して学部時代から研究を続けてきました。 泥炭は、動植物の遺骸が完全に分解されずに堆積して形成された土です。学部時代の研究では、まず泥炭中に含まれる化学物質を水溶性と脂溶性で分類し、セメント硬化を阻害しているのは脂溶性の有機化合物であることを推定しました。修士課程ではさらに、その阻害要因となっている化学物質をより詳細に検証し、セメントの硬化不良を引き起こす活性限界について評価を行いました。この研究によって、将来的な固化材の配合の効率化につながることを目指します。

モルタル供試体を作製し、実験を重ねる

実験では、水とメタノール(以下、MeOH)を溶媒に、超音波法で化学物質を抽出した「粗水抽出物」「粗MeOH抽出物」と、強熱減量によって有機物を分解除去した「無機物質」の3種類を準備。それぞれを練り込んだモルタル供試体を作製し、材齢3日、7日、28日に非破壊試験を、最終材齢28日に破壊試験を行って、各特性を評価しました。
その結果、粗MeOH抽出物を含んだ供試体が、標準モルタルと比較して有意差があり、粗MeOH抽出物に溶出した化学物質がセメントの強度発現に影響を及ぼしていることが確認できました。

 

阻害物質の活性限界の評価とその成分の特定に挑む

続いて、阻害要因となる化学物質の活性限界を調べるために、様々な配合量の供試体を作製し、圧縮強度を評価しました。その結果、セメントと泥炭の乾燥重量比18~75の間に活性限界が存在するという推察に至りました。

さらに、詳細な物質の評価を行うため、粗MeOH 抽出物に対して溶媒にヘキサン(Hexane)、ジエチルエーテル(Et2O)、酢酸エチル(EtOAc)を用いて液-液分配分画を行い、各分画物質を練り込んだモルタル供試体作製し、非破壊試験と破壊試験を行った結果、Et2O層に溶出した比較的極性の低い化学物質が、セメントの強度発現に影響を及ぼしていると推察されました。

 

地道な積み重ねが、学会での評価につながった

一連の実験では実際に様々な供試体を作製して評価を行いましたが、これは本当に根気と集中力が必要な作業でした。例えば、1本の供試体の破壊実験にかかる時間は約5分。今回の実験では全部で200本ほどの供試体を作製して破壊実験を行っており、相当な労力を要しました。また、抽出に関する作業は僕の所属する研究室ではできなかったため、本学部の手林慎一先生にご協力いただきながら実験を進めていきました。そういう中で、地味な作業を丁寧に行う大切さや忍耐力なども培うことができました。

今回の研究成果は、「第70回農業農村工学会中国四国支部講演会」において支部賞(奨励賞)を受賞することができました。高知大学での研究活動の集大成として大きな達成感を得ることができましたし、何よりずっと指導してくださった佐藤周之先生から「本当によくがんばった!」という労いの言葉をいただき、とてもうれしかったですね。

世界中に広がる泥炭層 その活用と環境保全へ向けて

泥炭層の地盤改良は、日本においては構造物を建設するための防災的な側面が注目されがちです。けれど世界に目を向けると、熱帯泥炭地などでは大規模開発によって泥炭火災が起こったり、乾燥で微生物による分解が進んだりして、炭素が大気中に大量に放出されるという問題も起こっています。今回の研究は、地盤を強化すると同時に、炭素を泥炭地に固定する意味で地球温暖化に貢献できる可能性も秘めています。  地道な一歩が、大きな未来につながる――それが、農学研究のおもしろさと言えるのかもしれません。

世界の泥炭層の分布

 

 


【流域水工学研究室】
僕たちの研究室では、様々な業種の民間企業、NPO団体や行政とネットワークを持っている先生の方針で、学生がその中に入っていろんな体験をすることができます。例えば、農業用水路の補修工事に、僕たち学生も"技術の勉強兼アルバイト"というかたちで関わらせてもらったり、再生可能エネルギーの導入に力を入れている地域で水車の設置を一緒にさせてもらったり・・・。他ではできない学生生活が送れること間違いなしです!

研究室の後輩たちと。実験やフィールドワークではお互いに協力し合う