高知大学農林海洋科学部・大学院総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

学び360度! 先輩たちの声
大学での学び方や先生との関係、農学生生活、サークルなどなど……。
高校とは違う大学でのリアルな生活を先輩たちに聞いてみました。

大学院インタビュー

紙の未来形「機能紙」を開発する

廣瀬友香

修士2年(2016年度)

紙で排水処理?! 利点を活かし、新素材を開発する

「機能紙」とは、機能性物質を紙に添加する、あるいは表面に乗せて機能性を持たせた紙のこと。既に商品化されているもので言うと、レシートの紙や電車の切符なども「機能紙」の一種です。
今回、私が取り組んだのは、活性炭粉末と紙を複合化し、吸着する機能を持たせた紙の研究です。現在、工場排水処理や下水処理の現場において、例えば染料などは粒状の活性炭を詰めた塔状の設備を通して吸着していますが、粒なので比表面積が小さく吸着力が低いこと、また加工性が低いことなどが課題となっています。そこで私は、粉末状活性炭を紙に複合化させ、シート状にすることで吸着速度を高め、さらに加工もしやすくなる利点も生み出そうと考えました。

解決の鍵は「イオン液体」

しかし、紙はそのままでは水中で溶けてしまうため、耐水性を付与しなければなりません。現在、一般的に使われている湿潤紙力増強剤は、国が規制する化学物質が副生成物として出てしまう問題があり、環境負荷の少ない新たな紙力剤を開発する必要がありました。そこで使用したのが、イオン液体です。

本研究のイオン液体はセルロースを溶解する特徴を持っており、シートの表面にこれを塗ることで表面の繊維だけが部分溶解し、セルロースがフィルム状に変化します。実験では、この部分溶解法により短時間でもシートの湿潤強度が増加すること、且つ、湿潤強度は活性炭量には影響されないことを確認。また、部分溶解法によって作製した活性炭含有シートを使って染料の吸着実験を行い、活性炭含有シートが吸着機能を有することを確認しました。

 

実用化に向けて、実験を重ねる

さらに、この活性炭含有シートの最適な使用条件を探るため、吸着速度と水中でのほぐれにくさにポイントを置いて、様々な比較実験を行いました。その結果、攪拌することによって吸着速度が上がることや温度が高くなるとシートがほぐれやすくなることなどがわかりました。それらの結果から、活性炭含有シートの最適条件を導き出し、この技術が水環境に適した高機能性シートに応用できるという考察を得ることができました。

 

学生研究から特許を申請!

この研究は、研究室の市浦英明教授の指導のもと、地元・高知県の製紙会社との共同研究という形で行われました。得られた成果は、先生や企業との連名で技術特許も申請しています。こんなふうに学生のうちから企業と共同研究ができたり、特許申請に関われたりしたことは、私にとって本当にいい経験になりました。
同じ研究室には、他にも誰でも知っているような大手企業と共同研究している学生などもいて、地方大学ですが、業界の最前線の空気に触れながら研究を行うことができています。

学会活動で、さらに視野を広げる

また、今回の研究成果は、日本木材学会中国・四国支部 第28回研究発表会において、研究発表賞(展示部門)を受賞することができました。成果が認められたという達成感は、今後への大きな自信につながりました。

修士の2年間で私は合計6回、学会に参加しています。中には国際学会もあり、英語でのポスター作成や発表、質疑応答の練習はとても大変でしたが、その分、英語力は向上しました。そもそも最新の論文はすべて英語で書かれているし、それを理解して活用するために大学院では英語は欠かせません。 高知大学での研究を通じて、専門性はもちろん、英語力や広い視野、そして課題にぶつかっても予測を立ててそれを検証していくという姿勢を学んだように思います。

 

 


【木材化学研究室】
私が所属する木材化学研究室には、様々な実験機材が揃っています。今回の活性炭含有シートは、国際規準に準拠した手すき抄紙器を用いて、製作しました。また研究室の市浦先生は、私がいつ質問に行っても、いつでも手を止めて話をちゃんと聞いてくれます。人として尊敬・信頼できる先生のもとで学べる、すばらしい研究室です!

木材化学研究室の仲間と一緒に