下部尿路生殖臓器機能障害の発症機序解明並びに新規治療薬の開発

■ 虚血による下部尿路機能障害、性機能障害及び造精機能障害
 虚血により誘導される下部尿路機能障害 (排尿筋過活動、前立腺肥大症、排尿筋低活動)、性機能障害、造精機能障害の 発症機序の解明および新規治療薬開発のための基盤研究を行っている (Saito M et al. Neurourol Urodyn 2012, Saito M et al. Sci Rep 2014, Shimizu S et al. Int J Urol 2014, Shimizu S et al. Int J Urol 2016, Shimizu S et al. Br J Pharmacol 2018, Shimizu S et al. Neurourol Urodyn 2019, Shimizu S et al. Eur J Pharmacol 2020, Shimizu S et al. Life Sci 2021a, 2021b, Shimizu S et al. Eur J Pharmacol 2022.)。

■ ストレス反応による頻尿の発症機構
 ストレスや緊張によって頻尿になることが知られているが、ストレスを受容する中枢神経系が頻尿を惹起する詳細な機序は明らかになっていない。 そこで、ストレス反応により誘導される脳内神経伝達物質が排尿反射に与える影響及びその分子機構について研究を進めている (Shimizu T et al. J Pharmacol Exp Ther 2016, Shimizu T et al. Br J Pharmacol 2017, Hata Y et al. Biochem Biophy Res Commun 2022)。

 健常人でも緊張した際など一時的に頻尿になることが知られているが、日常生活に著しく支障をきたす心因性頻尿として医療機関を受診するケースも見られる。 現在、治療法としては精神療法や精神薬理療法が行われているが、奏功率は決して高くない。 しかしながら、ストレスが頻尿を惹起する機序をストレス応答に関与する中枢神経系レベルで明らかにした報告は少ない。 我々は数種のストレス関連性脳内伝達物質(ボンベシン)をラットに脳室内投与すると同時に膀胱内圧測定を行ったところ、 ラットの排尿パターンがヒトにおける心因性頻尿と極めて類似していることを見出した。我々は本実験モデルにて頻尿が誘発される分子機構を明らかにすることで、 同実験系によってストレス応答により変動する様々な脳内伝達物質と排尿制御機構との関係をさらに解明できると考え、研究活動を行っている。

グリア細胞の脳疾患後遺症への関与の解明と後遺症の克朊を目指した新規治療法並びに治療薬の開発

■ 脳内Zn2+によるミクログリアの活性化制御
 中枢神経系細胞、特にグリア細胞の脳疾患後遺症への関与について個体ならびに分子レベルで詳細に解明し、 さらに解明した分子機構や活性化因子などを応用することで後遺症の克朊を目指した新規治療法並びに治療薬の開発を行っている (Higashi Y et al. Sci Rep 2017, Aratake T et al. Metallomics 2018, Ueba Y et al. Biochem Biophys Res Commun 2018)。

異常・過剰なストレス反応によるストレス関連疾患に対する新規治療法・予防法の開発

■ ストレス反応に関与する交感神経—副腎髄質系の脳内賦活制御機構に関する研究
 ストレス曝露に対する生体反応(ストレス反応)はストレス適応に必須であるが、 過剰・異常な反応は恒常性維持機構の破綻から高血圧症、消化性潰瘊等各種疾患の惹起・増悪に関与する。 また、ストレス曝露により健常人では一時的な頻尿をきたす一方、膀胱機能障害患者においては頻尿症状の増悪が誘発される。 ストレス曝露による上記疾患・症状の発症・増悪に対する現行の治療は末梢組織を標的とするものが主流であるが、奏功率は決して高くはなく、 「根本的な《治療戦略の構築が必要である。我々は新たな治療標的としてストレスを受容する脳に着目し、 治療戦略構築の基盤となるストレス反応の脳内制御機構を解析している(Nakamura K et al. Sci Rep 2014; Higashi Y et al. Br J Pharmacol 2018)。

■ 脳内ニコチン受容体に着目したストレス反応制御機構に関する研究
 タバコの主成分であるニコチンは薬物依存形成、すなわち喫煙の習慣性形成に関与することが広く知られている。 一方で近年、ニコチンが神経保護作用を有することが明らかにされ、 喫煙とパーキンソン病・アルツハイマー病発症との間に負の相関があるとする疫学報告との関連が示唆されている。 これら知見から脳内におけるニコチンの作用の多面性がうかがえ、ストレス反応制御との関連が興味深い所である。
 我々はこれまで、脳内ニコチン受容体(少なくともα4β2型サブタイプ)の賦活がSA系賦活惹起に関与することを明らかにした。 さらに、このSA系賦活に、①脳内2-AGが(1)と同様二方向性の役割を有すること、および、②脳内一酸化窒素産生が関与することを明らかにした。 本学の法医学教室は、喫煙者の遺体血液・尿中ニコチン/ニコチン代謝物濃度が自殺者において著しく増加することを報告しており、 喫煙とストレス反応(SA系賦活)、ひいては自殺行動との間に何らかの因果関係が存在する可能性が考えられる。 このようなことから、現在我々は自殺行動に対する新たな治療・予防標的としての脳内大麻の可能性について検討を進めている。

アミロイドβを分解する酵素ペプチドの前臨床試験

 アルツハイマー病は寿命の延長に伴い年々増加しているが、アミロイドβを分解する治療薬は存在しない。 現在、使用されている治療薬も多くは進行を遅らせる対処療法薬であり、アミロイドβを直接分解する根本的な治療薬となり得る化合物は見当たらない。 現代の酵素科学の常識から逸脱した加水分解酵素活性を有する短鎖合成ペプチドを発見し、その総称としてCatalytide (Catalytic peptide)を提唱している。 驚くべきことに、 Catalytideは結晶性の個体と可溶性のアミロイドβを加水分解することが判明し、 沖縄科学技術大学院大学より日米に特許申請を行った。Catalytideは、現在使用あるいは開発中の治療薬とは全く異なった新規ストラテジー(加水分解)による アルツハイマー病の根本的な治療薬となり得ることが予想されることより、その臨床応用を目指している (Nakamura R et al. Peptides 2019, Nakamura R et al. Integrative Molecular Medicine 2019, Nakamura R et al. J Royal Sci 2019)。