高知大学 医学部 外科学講座 外科1




平成27年1月





2015年の年頭に当たり、ご挨拶申し上げます。


2014年は3名の日本人がノーベル物理学賞を受賞するという輝かしいニュースで

盛り上がった。数学者の藤原正彦氏によると近年の日本のノーベル賞受賞者数

の増加は30年以上前の 「詰め込み教育」 の成果だそうだ。詰め込み教育世代

の一人として当時それは悪の権化みたいな言われ方をしたのを記憶している。暗

記ばかりの頭脳では創造力が育まれないというのが 「詰め込み教育」 反対論者

の主張であった。その 「詰め込み教育」 が創造力の極致ともいえるノーベル賞を

生み出す原動力になっているというのだから驚きである。


数学者の意見だから多分に直感が働いているかもしれない。しかし、どんな学問

でも最初は勉強からスタートするのだから必要最低限の知識は詰め込む必要が

ある。そういえば日本人で初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士も幼い頃に

漢詩を暗唱させられたと自伝 (湯川秀樹著:旅人)で読んだことがある。「三つ子

の魂百までも」 の刷り込み (in printing) と呼ばれる学習法らしい。


医療の世界で金科玉条の如く幅を利かせている EBM (evidence based medicine)

は他人様の研究成果を拝借して行われている他力本願の医療である。本当に凄

いのはiPS細胞発見者の山中伸弥先生のように自ら研究を行い、evidenceを創

出している人たちであるのは言うまでもない。ただし、evidenceを創出するために

は既知の evidenceを知らなければいけないのも事実であり、ここでも知識を詰め

込む作業は付きまとう。


医学界の悪の権化の象徴だった大学医学部の 「医局制度」 は、2004年に発足

した新医師臨床研修制度を契機に、厚労省の思惑通り急激に衰退した。しかし、

「医局制度」 も 「詰め込み教育」 同様に最近徐々に見直されてきている。その理

由は 「医局」 が衰退し、地方の医大の人材不足が如実となり、地域医療が崩壊

したからである。また大学医局に所属しない医師が過半数に達したため、優れた

基礎研究や臨床研究を行う若い医師数が明らかに減少しているからである。


宮城県赤十字血液センターの中川国利先生は 「大学医局への入局の勧め」(臨

床外科 2014:69(13):1505)の中で次の様に述べている。“医局時代に同じ釜の

飯を食べた仲間は何時までも同志であり、硬い信頼関係を築くことができた。ま

た他診療科の先生を多数知ることにより、診療の幅が大いに広がった。さらに多

数の市中病院を知り、置かれた医療環境による診療の実態を理解できた。私に

とって医局生活は、以後の外科医人生を豊かにする貴重な時期となった。”


我が国は 「ゆとり教育」 を廃止し、「非ゆとり教育」 へと舵取りしつつある。近い

将来 「医局制度」 も 「詰め込み教育」 同様に見直され、バージョンアップした形

で復活されることを切に願っている。


平成27年1月吉日
高知大学外科学講座外科1 教授 花ア 和弘