高知大学 医学部 外科学講座 外科1




平成28年1月





2016年の年頭に当たり、ご挨拶申し上げます。


2015年も日本人のノーベル賞受賞の話題で盛り上がった。


日本人で3人目のノーベル医学生理学賞の受賞が決まった大村 智先生(北里大

学 特別栄誉教授)は、長年にわたり微生物が作る有用な化合物を探求してきた。

中でも1979年に発見された「エバーメクチン」は、アフリカや東南アジア、中南米な

ど熱帯域に住む10億人もの人々を、寄生虫病から救う特効薬へとつながった。大

村先生の「10億人の命を救う」というキャッチフレーズは医学研究成果の理想形と

もいえる。大村教授は1973年、大手製薬会社メルク社と共同研究を開始。さまざま

な微生物が作る抗生物質などの探索を進める中で、静岡県内の土壌から分離さ

れた微生物が生産するエバーメクチンを発見した。まさにSerendipityがもたらした

画期的な業績といえる。


またスウェーデン王立科学アカデミーは2015年のノーベル物理学賞を、素粒子「

ニュートリノ」に質量があることを初めて確認した梶田隆章教授(東京大学 宇宙線

研究所長)に授与した。梶田先生は同じ分野の先駆者であり、2002年にノーベル

物理学賞を受賞した小柴昌俊先生(東京大学 名誉教授)の愛弟子であることも話

題になった。


大村先生と梶田先生の共通点は飾らないお人柄と周囲の人たちに対する感謝の

気持ちの強さである。特に大村先生の亡き奥様への感謝の言葉や「賞は微生物

にあげたい」という謙虚なコメントには感動した。また梶田先生と小柴先生との師

弟愛も微笑ましく感じた。お二人に共通する「何度失敗を繰り返しても、けしてあき

らめない」という強い信念も偉業を成し遂げるための不可欠な原動力に違いない。

大村先生が山梨大学、梶田先生が埼玉大学のご出身ということで、マスコミは“地

方大学に脚光”と囃し立てた。こうした明るいニュースの一方で、最近日本人の研

究論文数が減少しているため、これまでのようにノーベル賞受賞者が日本から選

考されないのではないかという未来を悲観する報道もみられた。


いずれにしろバッターボックスでバットを振らないとホームランが打てないように、

英語論文を書かないとノーベル賞は受賞出来ない。


何か大きな仕事を成し遂げるためには、自分を支援してくれるキーパーソンとの出

会いを大切にすることと、地方大学でもやれば出来るという楽天性も必要かもしれ

ない。ただし、「ローマは一日にして成らず」、「千里の道も一歩から」である。


2016年も教室員と共に明日の医療のための研究を推進して、その成果を高知から

世界へ発信していきたい。


平成28年1月吉日
高知大学外科学講座外科1 教授 花ア 和弘