高知大学 医学部 外科学講座 外科1





入 局 案 内
PDF 版)


はじめに

入局希望の初期研修医の先生から「高知大学外科1教室の目指す方向を具体的に

教えてください」と言われました。その時にお話した内容を基に、後期研修医や若い

教室員に指導者として私が何を目指し、何を求め、どんな内容の仕事をしていきた

いかの羅針盤のような役割を果たすものとして本小冊子を作成しました。他ではみ

られない当科で独自に実践している内容も盛り込みました。本冊子がこれから外科

医になりたい研修医だけでなく、既に外科医として活躍中の先生方にも活用してい

ただければ幸いです。

1.教室の目標

教室の目標を明らかにし、それを実現するための教室運営を行っています。



  − 大目標 −

研究マインドを持った優れた外科医(Academic Surgeon)の育成



この大目標を達成するために下記の3つの目標を設定しています。



  − 目標 −

  1) 医学教育の充実:母校愛を培う医学教育を行う

  2) 良好な手術成績の達成:良好な手術成績は良好な人間関係から生まれる

  3) 高知から世界に発信する研究:すべての研究は英語論文で完結する



以上の大目標と3つの目標を達成するために下記に示す様々な取り組みが行われ

ています。

2.外科医育成のシステムと資格取得

入局と同時に全員日本外科学会に入会していただきます。最初は日本外科学会

専門医資格取得のためのトレーニングを行います。日本外科学会専門医取得後は

各人の専門領域に応じて各学会(消化器外科学会、乳癌学会、小児外科学会など)

の専門医取得を目指します。手術件数の確保に関しては手術修得方法の項目で後

述します。最終的には日本外科学会指導医になっていただくことが大事です。資格

取得申請時には筆頭論文(申請者の名前が著者の最初に記載されている論文)も

必要となります。例えば日本外科学会指導医資格申請には5つの筆頭論文が必要

です。平成18年以降の入局者には遅くとも入局5年以内には筆頭論文が最低5編は

完成するように指導しています(筆頭論文数は入局年数の2倍を目標に指導してい

ます。すなわち入局3年目終了時には6編の筆頭論文が完成していることが目標と

なります)。外科医は筆不精の方が多いため、論文の指導については拙著「英語論

文の書き方」という小冊子を教室員全員に配布し、啓蒙しています。また具体的

な指導方法については個々人の状況に応じた個別指導を心がけています。我が国

の専門医機構は国民に安全で質の高い医療を提供するために各学会専門医資格

の priority を高めています。学会の専門医・指導医資格取得は個人の臨床能力

の高さを証明するためだけでなく、学会の認定施設(学会の専門医資格取得が

可能な施設)として大学病院や関連病院を維持し、向上させるためにも今後

益々重みを持ってきます。


将来もっといろいろな資格や学会評議員(国際学会も含めて)等になりたい方は各

自目標設定をしていただき、必要な業績を揃えられるように教室としても協力してい

きます。特に海外留学や大学内での academic position(講師以上)を目指す方は

数多くの筆頭英語論文が必要となります。尚、外科研修の詳細については当科

ホームページを、また専門医資格に関する詳細については各学会のホームページ

をそれぞれ参照してください。

3.教育方法

医学生のクリニカル・クラークシップや研修医教育には欧米で実践されている5つの

マイクロスキルを用いた教育法を推奨しています。5つのマイクロスキルを下記に

示します。


  1) 考えを述べさせる

  2) 根拠を述べさせる

  3) 指導医がほめる

  4) 指導医が一般論を述べる

  5) 指導医が今後の課題を促す


具体的には以下のように行います。1) ○○に関して君はどう思うの、2) どうしてそ

う思うの、3) いい点に気がついたね。その点は評価できるね、4) 一般的には○

○に関しては○○と言われているよ、5) 君の答えで、大体いいけれど、こうした点

を今後修正していくともっと良くなると思うよ。指導医もわからなかったらその都度勉

強します。人を教えることは自分のためにもなります。“Teaching is Learning” の

精神が大切だと考えています。


もう一つは母校愛を培う医学教育の徹底です。クリニカル・クラークシップではできる

だけ学生に母校に残って初期研修する長所を説明し、母校に残っていただくように

積極的に勧誘しています。また初期研修においては将来高知大学の外科を選択し

ていただけるように、外科研修のローテート期間にできるだけ多くの手術手技が実

践できるようなシステム(パーツ教育法:後述)を取り入れた研修を提供しています。

最近よくある質問に対する答えですが、外科医は女性でも十分やっていけます

欧米では乳腺内分泌外科や腹腔鏡外科分野を中心に女性外科医が活躍していま

す。日本でも女性外科医の活躍の場が拡がっていくことが期待されています。当科

では女性外科医の受け入れも積極的に行っており、結婚・出産・育児に関する

配慮や対応についても可能な限り協力する体制を整備しています。


尚、私自身は常日頃から学生や若い研修医の立場まで自分から降りていって、でき

るだけ friendly な関係が築けるように心がけています。そのためかどうかは不明

ですが、医学生や初期研修医から個人的に進路相談等を受ける機会が多い方だと

思っています。

4.手術修得方法

当科では平成18年4月以後パーツ教育法を導入し、実践しています。研修医には

大変好評です。図に示した如く、一つの手術を予めいくつかのパーツ(図ではAから

Dまで)に分別しておきます。最初に指導医の手術の助手として入り、すべてのパー

ツの手術を数回経験します。次に執刀医として簡単なパーツ(図ではA)から始めて

順序だてて難しいパーツへと移行し、最終的には手術全部のパーツを過不足なくマ

スターし、一つの手術術式を修得していく方法です。当科では何回も復習ができる

ようにほとんどの手術はDVDビデオで保存してあります。


若い時期から術者としての経験を積ませることを目的とした明解で効率的な手術修

得法です。この方法の最大の利点は若い時期から一手術症例の中に自分が執刀

できる部分が必ずあるため"自覚 and/or やる気"を持って手術に臨める点と簡単な

パーツから順番を追って基本的な手術手技や操作を反復することになるため無理

なく難しいパーツへ移行できるという点です。一つのパーツは個人の修得度や手

術の難易度にもよりますが、5例から10例位を目標に執刀していただいていま

す。


このようにシステマテックに指導教官が若い教室員に手術を教えることは教える側

も勉強となるため、相乗効果が期待できます。また若い外科医がやる気を持って手

術に臨めるため、手術場の雰囲気もいいものに変わってきています。ちなみに平成

18年度入局の3人はパーツ教育法によって後期研修開始1年間で肝切除は各人10

例前後ずつ、胆管-空腸吻合を含めた消化管吻合などは数十例ずつ執刀し、いず

れの症例もトラブルなく安全に施行できています。当科で行われている肝・胆・膵外

科、消化管外科、乳腺・内分泌外科、小児外科のすべての手術においてパーツ教

育法は取り入れられております。


5.研究の方法と学位の取得

入局者全員に学位を取得して欲しいと考えていますが、入局した段階で学位を取得

したいか否かの希望調査を行います。学位取得を希望する場合は入学の時期は

個々人の事情で異なりますが、原則として大学院へ入学していただきます。尚、大

学院在籍中も経済的には困らないように教室としてきちんと対応し、マネージメント

していますので、どうかご安心ください。当科においては “大学病院勤務だから経済

的に苦しい” ではなく “大学病院勤務だから経済的に苦労することなく研究に打

ち込める” ことを教室全体で努力しています。


研究のテーマですが、将来外科医療発展に結ぶ付くことが大事なため、臨床の疑

問点を解決するようなテーマが望ましいと考えます。基礎研究がやりたい場合は

原則として基礎教室へ出入りしていただくことになります。この場合の直接研究指導

者は基礎教室の教授にお願いしています。基礎研究で学位論文を完成した場合は

その時点で研究終了ではなく、基礎研究の成果を将来的には臨床の場に生かせる

(トランスレーショナル・リサーチ)研究として完成させる努力も大事です。また生涯

一論文医師(学位論文しか論文がない医師)だけにはならないように研究マインド

がしっかり備わった外科医を育成したいと切望しています。


尚、臨床をしながら臨床の研究で学位を取得したい場合は、私が教室で進行中の

研究の中からテーマを選んで指導する形になります。外科医志望者は手術の腕前

を磨くことを優先する方がほとんどなので、基礎研究をやるか臨床研究をやるかは

分かれますが、臨床をやりながら学位も取得したいというケースが多いのも事実で

す。当科はそうした要望にも充分応じられます。


教室では外部研究資金の獲得も積極的に行っているほか、高知医療再生機構によ

る若手医師のキャリア形成に必要な支援も受け、研究資金や研究環境は地方大学

の外科教室では恵まれている方だと思います。Motivation を維持する上でも “学位

論文はダラダラ仕上げない” というのがコツです。良いテーマを短期間でビシッと研

究して研究の成果は必ず英語論文で完結、将来的には臨床の場へフィードバック

することを目指した研究指導を行っています。

6.留学

当科では他施設での “武者修行” を大いに薦めております。“井の中の蛙、大海を

知らず” では困るからです。日本を代表する優秀な外科医との交流は手術手技

だけでなく、人間性を磨く上でも有意義です。まず夏季研修として国内の一流外

科施設での短期間研修を全員に推奨し、研修体験者は大変刺激を受けて帰って来

ています。新しい技術に関しても積極的に留学によって導入できるように配慮いたし

ます。


長期間の国内留学は自分で希望する施設や指導者が推薦する施設を紹介し、必

ず推薦状を持って行っていただくように手配しています。


また海外留学も事情が許せばできるだけ多くの方に行っていただけるように手配し

たいと思います。異文化に触れることは貴重な体験となり、一生の財産にもなりま

す。また普段なかなか家族サービスができない外科医にとっては家族と触れ合う絶

好の機会にもなるでしょう。留学の施設はこちらの希望も含めてその都度個別に検

討させていただきます。特に海外留学時には経済的にもできるだけ困らないよう

な配慮も同時に行う方針です。

7.未来像

若者は無限の可能性を持っています。特に外科医は技術系の要素が強いため、若

い時期にどれだけしっかりしたトレーニングを受けたかどうかが非常に大事になりま

す。そのためには良き指導者(自分を引き上げてくれる上司との出会い)や良き仲

間に恵まれることが大切です。当科の自慢は“性格が明るくて気のいい仲間が多

い”ということです。


私は、医師の評価は他者評価(医師だけでなく患者さんやパラメデイカルの方たち

も含める)によって決まるものだと考えています。自分で「手術が上手だ」とか「業績

がある」などと自慢している外科医にまともな外科医はいないのではないでしょうか。

また医師の評価としては “最終的に到達するレベル” が最も大事だと考えてい

ます。“自分が入局するならこんな教室に入局したい” 教室作りを目指して日々

努力しています。教室の基本方針として入局者全員の帰属機関として教室を位置

づけ、学位取得、学会専門医・指導医資格取得、専門分野の確立から将来の就職

まで生涯困らないように最後まできちんと面倒をみさせていただきます。また本人の

希望で将来教室を離れ、外部施設で “大きく羽ばたいていただく” ことも充分可能

です。是非私たちの教室を活用して高知県だけでなく、日本や世界の外科医療も背

負って立つような立派な外科医に成長していってください。

最後に

医師になって最終的にどの科を選ぶかというのは誰にとっても頭の痛い問題に違い

ありません。私の同級生の中には最後は易者に自分の行くべき科を決めてもらった

者や親の遺言で泣く泣く進むべき科が決まった者もいました。私はどうかと言えば、

易者は内科医の方が向いていると占ってくれましたが、外科医になりました。いずれ

にしろ最後は自分で決めるしかないのが辛いところです。外科医は “生涯チャレン

ジが続く、エキサイテイングでやりがいのある職業” だと感じています。本小冊子は

進路決定を目的に作成したものではありませんが、“全国で一番若者にチャンス

を与えられる外科教室” を作り上げたいという指導者の熱意だけは詰め込んだつ

もりです。


一緒に走りませんか 外科医の道を!


皆さんが当科を希望して仲間になっていただけることを心から願っています。



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