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前立腺癌に対する小線源療法

 小線源療法とは、体の中から放射線をあてて、癌細胞を死滅させる治療法です。手術とほぼ同等の位置づけの治療法になります。小線源療法には、小線源を永久に前立腺内に埋め込む「永久留置」と、放射線を発する小線源を一時的に前立腺内に挿入して治療する「高線量率組織内照射」の2つの方法があります。どちらの治療を行うかは、患者さんの癌の状態によって決まります。

小線源療法の特徴

1.放射線障害がおこりにくい

 小線源療法、特にI-125などのエネルギーの弱い線源を用いた場合には、前立腺内部には十分な量の照射が可能ですが、前立腺周囲への照射量は少なく抑えられます。そのため、皮膚への影響はほとんどなく、直腸や膀胱での放射線障害の発生する率も低くなり、これがこの治療の大きな利点となります。

2.安定した照射野が得られる

 前立腺は腸管の動きや膀胱内の尿量によって位置が変化し、1~2cmは移動します。しかし、小線源療法の場合、線源が前立腺内にあるため一定の照射が行われます。

3.性機能が維持されやすく、尿失禁はおこりにくい

 前立腺癌治療において、ホルモン療法は、男性ホルモンを低下させるため性機能はほとんどの場合、失われます。前立腺全摘手術においては、神経温存を試みても機能が保たれる率は4割程度です。一方、放射線療法では、その率が高く、5年後に性機能が維持されている率は7~8割と報告されています。また、尿失禁に関しては、治療直後に起こることは稀で、その後も発症率は低いとされています。

4.体への負担が少なく、入院期間が短い

 手術操作や麻酔が必要であり、体に全く負担がないわけではありませんが、全摘手術に比べると体への負担は少ないです。入院は、「永久留置」の場合、3泊4日で、「高線量率組織内照射」は、10日程の入院が必要ですが、全摘手術に比べると短いです。

5.次のような場合にはこの治療は行えません

  • 過去に前立腺肥大症の手術をされている場合(できることもあります)

  • 下肢の挙上や開脚など、線源を挿入する際に必要な体位がとれない場合

  • 骨盤部への放射線照射の既往がある場合

  • 前立腺結石が著しく、前立腺の輪郭が不明瞭な場合

  • 恥骨弓が狭いため針の刺入が困難な場合

  • 合併症などのために、この治療や麻酔に伴う危険性が高いと判断された場合

  • 治療中、治療後に安静が保てない場合や、意志の疎通がとれない場合

  • アスピリンやワーファリンなど出血傾向をまねく薬剤を使用していて、その薬剤を治療前後の一定期間、中止できない場合

  • 当院の画像検査で測定した前立腺容積が40cc以上の場合(ただし、約6ヶ月間のホルモン療法にて40cc以下になった場合は行うことができます)

  • その他、当院において本治療が適切でないと判断された場合

ヨウ素125シード線源永久留置による密封小線源療法(LDR)

  • 実際の線源大きさ

  • 元素記号:I
    質量数:125
    線質:γ線およびX線
    半減期:59.4日
    平均エネルギー:28.5KeV

シード線源挿入方法

 脊髄クモ膜下麻酔で行います。尿道に管が入り、翌日まで留置されます。下腿には血栓予防のための装具がまかれます。台に横たわっていただき、下肢を挙上したかっこうで処置を行います。肛門からエコーのプローブが入り、エコーの画像を見ながら、会陰部から前立腺内にアプリケーター針とよばれる針が20本程刺入されます。症例により異なりますが、全部で60~80個程のシード線源が留置されます。治療には2時間程かかります。

  • 治療時の図解(クリックで拡大します)

  • コンピューターで計算された通りに、
    それぞれの針の中に数個ずつシード線源が挿入
    されていきます。

  • I-125シード線源挿入後のX線写真

シード線源挿入後の注意

  • 周囲の方へ与える放射線量は人が自然に受けている放射線量よりも低いのですが一定の期間は周囲の方への配慮が必要です(1m離れると放射線の影響を受けません)。1年たてば周囲への影響を気にする必要はなくなります。

  • 妊婦、子供と同室にいることは問題ありませんが、治療後2ヶ月は直接接触を避けて下さい。

  • 排尿時に線源が排泄されることがあります。線源を拾えるようならスプーンなどですくい、専用容器に入れて下さい。

  • 治療後4週間したら性行為は問題ありませんが、1年間はコンドームを使用して下さい。

  • 患者カードを1年間携帯して下さい(海外渡航時には英語版が必要です)。

イリジウム192高線量率組織内照射療法(HDR)

 当院は、1999年6月より、わが国6番目の施設として本治療を開始しました。


高線量率組織内照射療法のスケジュール

 硬膜外麻酔あるいは脊髄クモ膜下麻酔で行います。麻酔をかけた後、アプリケーター針とよばれる針を20-30本程、会陰部より刺入します。その後、CTを撮影し、治療計画をたてた後、当日に2回、内照射を行います。照射間隔を6時間以上あけなければならないので、10時間程、針をさしたまま安静にしていただきます。治療終了後、針を抜き、止血処置を行います。また、2018年8月より、本邦初の試みとして、1回のみ内照射を行う単回照射法も行っています。

当院におけるHDRの治療スケジュール
  • アプリケーター(針)を刺した状態

  • 組織内照射治療計画の実際

  • 前立腺組織内照射の様子

  • 高線量率組織内照射時のモニター画面

高線量率組織内照射療法の治療効果

 当院における本治療の治療成績は以下の通りです。手術療法、放射線療法いずれにせよ一長一短があり、患者さんひとりひとりにあった、最も良いと思われる治療法を、患者さんと共に考えて選択しているのが現状です。

当院におけるHDRの治療スケジュール

小線源療法の合併症

 前立腺癌に対する小線源療法とは前立腺を中から焼くと思っていただければ良いのですが、その影響が前立腺の周りの臓器、すなわち、膀胱・直腸・尿道にも現れることがあります。以下に述べる障害が発生するかどうか、また、その程度の差は、個人の放射線に対する感受性の違いによって決まります。


周術期(入院中)

 針の刺入に伴う血尿が見られます(まれに輸血が必要な場合があります)。

急性期合併症(治療後6ヶ月まで)

 治療後約6ヶ月までに現れる急性期合併症の症状としては、頻尿、排尿痛、血尿、下痢、血便などがあります。つまり、排尿および排便の調子が少し悪くなります。これらの症状は、ほとんどの場合、3ヶ月をピークに増悪し、6ヶ月までに治ります。

晩期合併症(治療後6ヶ月以降)

 頻度は低いですが、6ヶ月以降に障害が現れることがあります。

  • 放射線性膀胱炎:血尿や痛みが現れます。

  • 放射線性直腸炎:下血や痛みが現れます。潰瘍、尿道直腸瘻など重篤な場合には人工肛門の造設が必要になります。

  • 尿道狭窄:尿道が狭くなって排尿に時間がかかり、痛みを伴います。

  • 性機能障害:20~30%に勃起障害が起こります。

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