高知大学医学部泌尿器科学教室

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尿失禁根治手術 (文責:担当 井上啓史)

腹圧性尿失禁

 重い物を持ち上げたり、くしゃみや咳をした時などお腹に力が入ったときに尿がもれてしまう症状を腹圧性尿失禁といい、出産や骨盤内の手術、加齢変化などが原因となって膀胱や尿道を支える骨盤底の筋肉の力が弱くなっているために生じる症状と考えられます。症状が進行した場合は椅子から立ち上がった時や、歩行時にも尿失禁が生じます。40歳台以上の女性の3割以上に尿失禁の経験があると言われており、生活の質の向上のためにも専門医での診断、治療を受けることをお勧め致します。

 治療法はこれらの骨盤底筋群を刺激する体操や薬物療法などの保存的療法がありますが、これらで充分な効果が得られない場合に手術療法があり、その中でも近年、TVT(tension free vaginal tape)手術、TFS (Tissue Fixation System)手術などの尿失禁根治術がよく行われ、その有効性が示されています。


腹圧性尿失禁の起こるしくみ

 骨盤底臓器を支えるしくみとして、膣ハンモックという概念があります。これは、膣を中心として前後上下に靱帯や筋肉がハンモック状になり骨盤内臓器を支えているという概念です。この中で尿道支えている靱帯が恥骨尿道靱帯です。これらの構造の緩みや断裂によって尿失禁や臓器脱が生じます。そして尿失禁手術では、緩んだ恥骨尿道靭帯を補強する様にテープを留置します。

出典:「インテグラル理論から考える女性の骨盤底疾患」 著:Peter Papa Petros

新しい腹圧性尿失禁手術 TFS(Tissue Fixation System)手術

 現在腹圧性尿失禁手術としてTVT手術が一般的ですが、テープを留置する際に膀胱誤穿刺や、恥骨の裏を走る血管の損傷、腸管損傷といった重篤な合併症も起こりえます。

 このような合併症を改善するために、TOT(Transe Obturator tape)手術も行われるようになってきました。この手術は尿道の下にテープを通し閉鎖孔という股の付け根にテープを固定します。しかし、恥骨尿道靱帯をテープで補強するTVT手術に比べ、膣ハンモックを補強するTOT手術は支えが弱くなるため、重症の腹圧性尿失禁には効果が低くなります。その他、閉鎖神経の近くにテープが通るため、神経損傷の危険性もあります。

 このため、当科では、TVTの合併症を改善し、治療効果も同等の新しい手術法としてTFS手術を導入しました。

 その特徴として、TVT手術と同様にぐらぐらになった尿道をテープで支えますが、腹壁ではなく恥骨下の尿生殖隔膜というところに固定します。

出典:「インテグラル理論から考える女性の骨盤底疾患」 著:Peter Papa Petros

 この術式では、TVTで起こりうる重篤な合併症が起こりにくくなっています。

TFSで使用する器具、ポリプロピレンテープ

腹圧性尿失禁根治術 TVT (tension free vaginal tape) 手術

 TVTとは無張力で膣壁を支持するテープの意味で、中部尿道を膣壁側より支持することにより、腹圧上昇時の尿失禁を防ぐものです。特徴として短時間(約1時間)の手術が可能で、約1cmの傷が腹部に2ヶ所、膣1ヶ所だけで、局所麻酔と鎮痛剤での実施が可能など体への侵襲が低いことが上げられます。また過度の矯正を防止できる為に術後に排尿障害の発生が少なく、術後短期間での退院が可能です。効果に関しても高い有効率と効果の持続が期待できます。(本手術の症例の多い北欧での調査では手術を受けた方の97%が術後の状態に満足しています。)


TVT尿失禁根治術のスケジュール

 当科におけるTVT手術のスケジュールを紹介します。

 外来で腹圧性尿失禁の診断、評価を行った後、手術前に必要な検査を行います。

 この検査の結果、手術が決定しますと手術日の前日から数日前に入院していただくようになります。手術は短時間で施行が可能で、手術当日より摂食、歩行、自排尿が可能です。手術日は抗生剤などの点滴を行いますが、翌日より内服剤に変更が可能で、また排尿状態を確認して手術後数日(最短では手術翌日)での退院が可能です。退院後は手術後7日目に傷の治癒や排尿状態を確認しますが、以後は1ヶ月後、3ヶ月後と間隔をあけて外来での経過観察を行っていきます。


高知医科大学におけるTVT手術の効果

 当科では平成11年11月よりTVT手術を開始しておりますが、患者さん全員、術後に強い排尿困難を認めず、早期の自排尿が可能で、その他、重い合併症は見られず、術後早期の退院が可能でした。退院後、全員腹圧性尿失禁は手術直後より著明に改善し、仕事や運動時の腹圧性尿失禁が消失するか極めて軽微となり、その後も失禁の再発や合併症を認めませんでした。腹圧性尿失禁に対するTVT手術は、その適応が認められる場合、治療効果の永続性や安全性に優れる手術法だと考えられます。

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