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コラム -医療情報提供-

甲状腺がんの放射線性ヨード内用治療

 甲状腺について
 甲状腺はのどぼとけのすぐ下にあり、蝶が羽をひろげたような形の縦4㎝ほどの小さな臓器です。正常な甲状腺は海藻などの食物に含まれるヨウ素を原料として甲状腺ホルモンを作っています。甲状腺ホルモンはからだの発育を促進し、新陳代謝を活発にする働きをしており、その量は常に適正に保たれています。
 甲状腺ホルモンはその量が多すぎても少なすぎても体調が悪くなります。

 甲状腺がんについて
 甲状腺がんの頻度はすべての癌の1%程度です。近年発症率は増加傾向にありますが、検査法が進歩したことでより小さな癌が早期に発見できるようになったことからです。
組織型によって、乳頭がん・濾胞がん・髄様がん・未分化がん・悪性リンパ腫に分けられ、それぞれ全く違う特徴があります。このうち乳頭がんと濾胞がんは分化型がんと言われ、甲状腺がんの9割を占めます。
 がんの種類や進行の程度(病期、ステージ)に基づき、患者さんに適した治療が選択されます。甲状腺がんの治療は手術が基本となりますが、そのほか放射線や薬(甲状腺ホルモン薬や抗がん剤)が用いられることもあります。

 ヨード内用療法のしくみ
 甲状腺がんのうち乳頭がんと濾胞がんの細胞は正常甲状腺細胞と同様にヨードを取り込む性質を残していることがあります。放射線を出すヨード(放射性ヨード、131I)を飲むことで、がんに放射性ヨードが取り込まれ、がんの中から放射線を照射することができます。  放射性ヨードから放出される放射線のうち、治療に関与するのはベータ線と呼ばれる種類のもので、体内で影響が及ぶ距離は5mm未満で病変部に集中して放射線を照射できます。放射性ヨードの集まりが少ない細胞への影響はほとんどありません。このため、非常に副作用の少ない放射線治療を行うことができます。
 放射性ヨード治療には
  ➀甲状腺がん術後の再発予防を目的として行う場合
  ②甲状腺がん術後で、再発や肺などの遠隔転移の治療を目的として行う場合
 とがあります。

 治療の前に
 甲状腺組織が残っている状態で放射性ヨードを投与すると、がん細胞よりも残っている甲状腺に多く取り込まれてしまい、治療効果が低下するため、放射性ヨード治療を行う際には、まず事前に腫瘍を含めた甲状腺の全摘出が必要です。
 通常であれば患者さんはホルモン低下を防ぐために甲状腺ホルモン剤の内服をしていますが、ヨード治療前4週間前よりホルモン剤は休薬します。さらに治療前の2週間前からはヨード制限食といって、ヨウ素を含まない食事をとるようにしてもらい、体内の残存ヨウ素をできるだけ低下させます。そうすることによって放射性ヨウ素を効率よく病変に取り込むことができます。

 実際の治療について
 治療は当院では原則入院で行います。入院初日に131Iの入ったカプセルを複数個飲んでいただきます。飲むのは一回のみで、後は吸収されたがんに取り込まれるのを待つだけです。ただし、131Iはベータ線のほか、飛程距離の長いガンマ線も放出するので、周囲の人への放射線の影響を避けるために、内服後に体内から出る放射線が基準の値に減るまでの3~4日間ほど特別に作られた病室から原則出ることができません。入院期間中に面会はできず、閉所恐怖症が強い方やご自身での身の回りのことを行うことが難しく介助が必要な方はこの治療は困難です。

 副作用について
 放射性ヨード治療は副作用が少ないですが、大きく二つあります。一つは準備段階の甲状腺ホルモン剤を休薬することによる甲状腺機能低下によるもので、倦怠感やむくみ、体温低下などが出現することがあります。これは治療後にホルモン剤を再開することにより改善します。もう一つは放射性ヨードが消化管や首の回りなどにも集まることにより吐き気や首の腫れ、味覚異常などです。これらもほとんどは一時的なものです。

 ヨード治療は1950年代初頭よりアメリカで始まり、1960年代には日本に導入された歴史のある治療です。

 現在、当院には放射性ヨード治療を行うためのアイソトープ病室が3室あり、昨年は 24例の患者さんの治療を施行しています。高知県内では当院のみの施設で、県内他病院からの紹介患者さんも受け入れて行っています。実は日本全体としても治療設備や専門医が少ないことなどで、需要に対して供給が追い付いていない状態で、状況によっては治療開始までに待機期間が少なからずあることがあります。


◎ 著者プロフィール
氏名:宮武 加苗(ミヤタケ カナ)
所属:高知大学医学部附属病院 放射線科
役職:助教

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