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コラム -医療情報提供-

癌の光線力学診断(膀胱癌、胃癌などへの取り組み)

 5-アミノレブリン酸(5-ALA)は、動植物に含まれる天然アミノ酸です。この5-ALAを内服すると正常細胞に取込まれ、ミトコンドリアでプロトポルフィリンⅨ(PpⅨ)に合成され、最終的にエネルギーの原料となります。一方、癌細胞では正常細胞と比較して、このPpⅨが約17倍と過剰に集まります。癌細胞に過剰に集まるPpⅨは光活性を有し、青色可視光で励起すると赤色蛍光を発光します。この5-ALAを光感受性物質として用いて癌細胞を赤色に蛍光発光させる診断法が光線力学診断(ALA-PDD)です。このALA-PDDは、癌細胞に共通する基本的な生物学的特徴に基づく技術で、他の癌にも応用が可能です。
 膀胱癌は尿を貯め排泄する臓器である膀胱の粘膜に発生する悪性腫瘍で、主に喫煙が原因とされ、多くは血尿で気付きます。膀胱癌の大部分は、膀胱壁の筋層には至らない根の浅い癌で、尿道からの内視鏡で観察しつつ癌を切除します。しかし、手術の際、微小な癌や平坦な癌、隆起した癌の裾野に広がる平坦な癌などは、従来の内視鏡では観察できず残ってしまうため、内視鏡手術後の膀胱内再発が多くみられました。
 そこで、このALA-PDDが膀胱癌の新たな治療戦略として、特に微小な癌や平坦な癌の検出率を著明に向上させ、さらに内視鏡手術後の膀胱内再発を減少させました。本邦において、この5-ALAは、高知大学を中心に開発され、膀胱癌に対する術中診断薬として、2017年に薬事承認を取得し、現在は健康保険での臨床実施が可能です。この5-ALAを内服して膀胱癌を診断する世界初のALA-PDDは、日本の「膀胱癌診療ガイドライン2019年版」においても最高水準の評価です。ALA-PDDは、その他、脳腫瘍でも薬事承認され、さらに胃癌の腹膜播種でも、高知大学などで医師主導治験を実施中で、今後より多くの癌での臨床導入が期待されます。
 これら高知ブランドの光線力学診断などの診療・研究開発・教育を、より活発に行うために、2017年高知大学医学部に光線医療センターを開設しました。日本初の本格的な光線医療技術を取り扱う診療科横断的な組織で、専属研究員を中心に、医学部生理学(循環制御学)、大阪大学工学研究科、東京工業大学生命理工学部、SBIファーマ株式会社から専門家を客員教授・顧問として迎え、大学間連携・産学連携による研究開発を行っています。


◎ 著者プロフィール
氏名:井上 啓史(イノウエ ケイジ)
所属:高知大学医学部附属病院 泌尿器科
役職:教授

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