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コラム -医療情報提供-

ほくろの癌とノーベル賞の治療

 ほくろの癌は悪性黒色腫、またはメラノーマという病名で知られています。皮膚だけに病気がある場合は手術により治療できますが、一旦転移してしまうと命にかかわる事態となる悪性度の高い皮膚がんです。罹患率は10万人あたり1人と少ない希少がんですが、抗がん剤の治療効果がない大変予後の悪いがんの1つです。ほくろの癌の治療に転機が訪れたのは2014年で、その後ノーベル賞を受賞することになる日本人が開発した薬の登場により治療方法が劇的に変化しました。
 2018年のノーベル医学・生理学賞は京都大学の本庶佑(ほんじょ たすく)先生が「免疫抑制の阻害によるがん療法の発見」で受賞されたことは、皆さんご存じかと思います。私達の身体に本来備わっているがんを監視する働き、これを免疫といいますが、がん細胞はこの免疫にブレーキをかけることによりどんどん増殖していきます。もう少し詳しく述べますと、私達の身体の免疫細胞には正常な細胞を攻撃しないように「ブレーキ」を持っていますが、がん細胞はこの仕組みを悪用し、免疫細胞のブレーキをかけっぱなしにして、がん細胞自身がやっつけられないようにしています。本庶先生は免疫細胞のブレーキである「PD-1」を発見され、がん細胞がこのブレーキを使えないような薬「オプジーボ」を開発されました。
 世界で最初にほくろの癌が転移した患者さんの治療に、「オプジーボ」が用いられ、転移が消失したり小さくなったりしたことから、その後他の多くの癌にも使用されるようになり、たくさんの患者さんの命が救われています。
 現在、ほくろの癌が転移した患者さんの治療は、がん細胞が免疫細胞のブレーキをかける程度が強い方においては「オプジーボ」だけの治療で充分ですが、ブレーキが弱い方では「オプジーボ」と他の薬を併用することにより、今度は免疫細胞にアクセルをかけて治療効果を高めることができます。
 副作用に関してですが、免疫細胞のブレーキがはずれますので、正常な細胞が攻撃される場合があります。腸の細胞がやられると下痢や腹痛となる腸炎、肺の細胞がやられると発熱や咳が生じる間質性肺炎がよくみられますが、その場合は免疫細胞の暴走をおさえるためにステロイドという薬を投与し治療します。多くの場合、副作用が落ち着けば「オプジーボ」の治療を再開できます。
 また、ほくろの癌の患者さんの一部には、がん細胞に遺伝子異常がみつかることがあり、その場合にはその遺伝子を標的にした薬を投与すると、ほぼ完全に転移をおさえることができます。
 このように、ほくろの癌の治療はここ数年で急速に進歩しており、今後も新薬が次々に出てきますので、治療に期待が持てると言えます。


◎ 著者プロフィール
氏名:中島 英貴(ナカジマ ヒデキ)
所属:高知大学医学部附属病院 皮膚科
役職:講師

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