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コラム -医療情報提供-

遺伝性乳がん卵巣がんの予防手術

 今回は、この4月に保険適用となった遺伝性乳がん卵巣がんの予防手術についてお話をします。
 細胞が増える際に様々な要因で傷ついた遺伝子を修復するタンパクを作る遺伝子をがん抑制遺伝子と呼びます。このがん抑制遺伝子の両親から受け継いだどちらか一方に生れながらに変異があると、特定のがんにかかりやすいという特徴があります。このような状態を遺伝性腫瘍と呼びます。がん抑制遺伝子の中のBRCA1,BRCA2遺伝子に変異があると女性では乳がん・卵巣がんになる危険性が非常に高くなり、今回の話題である遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と呼ばれています。
 日本では、BRCA遺伝子検査は一部の再発がんを除くと私費で行なわれていました。予防手術も保険適用がなく、検査に約20万円、手術には60万~120万円の費用が必要でした。
 今年4月に、HBOCで乳癌に罹患した女性の反対側の乳房切除と卵管・卵巣切除および卵巣癌に罹患した女性の両側乳房切除が保険適用になりました。予防治療を償還しないとする日本の健康保険法の下では画期的な改訂です。
 予防切除は通常の乳癌・卵巣癌の手術とは違い、病気(がん)のない健康な臓器を切除します。このため、遺伝子検査や手術に際して、乳癌・婦人科癌の専門家に加え、遺伝の専門家の協力が不可欠です。臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングを受け、遺伝性腫瘍の発がんリスクと予防切除の意義、術後の生活や近親者に対する影響などについて十分な情報提供を受け理解した上で決断する必要があります。このため、遺伝診療部門のある施設で手術を受けることが推奨されています。
 近年、遺伝子検査が廉価で迅速にできるようになり、遺伝子の変化を知ることで発がんリスクを認識し、検診や予防的治療を行うことでリスク回避ができる時代になりました。
 日本の遺伝性腫瘍の患者さんが公的保険を利用してリスク回避ができるという意味でも今回の保険改訂は画期的だと言えます。しかし、現時点では、1/2の確率で同じ遺伝子の変化を受け継ぐ可能性がる近親者の遺伝子検査や検診・予防手術は保険適用がなっていません。近親者の検査は遺伝子変化のある部分だけを調べるため比較的廉価で3-6万円ですが、高額な検診や予防手術は私費となるため、遺伝性腫瘍の診療としてはまだまだ不十分だと考えています。


◎ 著者プロフィール
氏名:杉本 健樹(スギモト タケキ)
所属:高知大学医学部附属病院 乳腺センター/臨床遺伝診療部
役職:病院教授

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