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コラム -医療情報提供-

ヘリコバクター・ピロリ感染症と血液疾患

 ピロリ菌は慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍や胃がんなどの原因になっていることがわかっていますが、血液疾患においても胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、鉄欠乏性貧血など、一見関連がなさそうな疾患にも関与していることがわかってきており、注目されています。
 胃MALTリンパ腫は悪性リンパ腫の中で低悪性度リンパ腫に分類され、年単位のゆっくりした進行を示すのが特徴です。ピロリ菌によって胃の粘膜が慢性的な炎症を起こすことが、リンパ腫の発症に関与していると考えられています。このためピロリ菌の除菌が第1選択の治療法となっています。しかし、1~2割で効果がみられない場合もあり、第2選択として放射線療法、CD20抗体薬であるリツキシマブ単剤あるいは化学療法との併用療法などを行います。
 特発性血小板減少性紫斑病は血小板が減るため血が止まりにくくなる病気で、血小板に対する自己抗体が産生されて発症します。ピロリ菌感染と血小板減少の関連に関しては不明の点もあるのですが、ピロリ菌を排除しようとして産生された抗体が、同時に血小板も攻撃するため、血小板減少を来しているのではないかと考えられ、ピロリ菌除菌成功例の6~7割の患者さんで血小板が増加します。その他の治療としては、ステロイド治療がメインになってきますので、副作用の面からも、ピロリ菌の除菌治療だけで紫斑病が改善すれば、患者さんの負担軽減にもつながります。
 鉄欠乏性貧血は貧血の中では最も頻度の高い疾患で、月経のある20~49歳の女性においては15~25%程度にも認められます。鉄欠乏の原因としては①消化管出血や生理出血等による鉄喪失の増大、②偏食や胃切除などによる鉄供給の低下、③小児や思春期、妊婦、授乳女性等による鉄需要の増大、があります。この中でピロリ菌感染は、食事中の鉄分を奪い取る、あるいは、慢性炎症から萎縮性胃炎を来し、鉄分の吸収が低下することで鉄欠乏に関与していると考えられます。鉄欠乏性貧血治療の基本は鉄剤の内服ですが、鉄剤内服治療に反応しない患者さんの中にピロリ菌感染が関係している場合があり、ピロリ菌の除菌治療を追加することによって、鉄欠乏性貧血が改善する場合があります。
 このようにピロリ菌感染の治療によって難治性の血液疾患をも治療できる場合があることが、最近の研究で分かってきました。


◎ 著者プロフィール
氏名:砥谷 和人(トギタニ カズト)
所属:高知大学医学部附属病院 血液内科
役職:病院准教授

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