専攻長からのメッセージ

人と自然の共生をめざして

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田中 壮太

第5代専攻長。専門は土壌学

黒潮圏総合科学専攻の教育・研究は大きく2つの柱の上に構築されています。ひとつは、分野融合・文理融合を基盤とする学際性。2つめは、日本と東南アジア、とりわけ、黒潮圏諸国との繋がりの中で活動する国際性です。

ひとつ目の柱である学際性の視点からの教育研究では、人と自然の共生のあり方を探ってきました。人類が生まれて以降、人は自然の中に包摂され、自然生態の枠組みの中でうまく調和して生活してきました。人と自然の間の物質循環は持続的で、自然資源は再生可能な状況でした。しかし、産業革命が始まる頃から、この調和は崩れてきます。地下資源を大量に組み出して地上で利用することで、それまでとは比較にならないほどの大量の資源消費が始まります。同時に自然が処理のできない量の廃棄物が一気に排出されるようになりました。

人の活動の急速な成長が自然資源の持続性を脅かすとの指摘は、T. R. マルサスが18世紀末に発表した「人口論」を皮切りに、1970年代のD. メドウズらの「成長の限界」、さらには、1990年代に発表されたM. ワケナゲルらによる「エコロジカル・フットプリント」などなど著名なものだけでも枚挙に暇がないほどです。しかし、全球的な視点からみる限り、その実情は深刻さを増すばかりです。たとえば、気候変動や原発事故、さらには、新興国の経済発展に伴う大気や水の汚染と不足などを想起してもらえば、その様子は明らかでしょう。

本専攻では、こうした人と自然の共生の問題を地域に見出し、その解決策やそれを支える科学的な原理の解明を目指しています。共生の問題を考える際には、自然科学だけでなく人文社会科学の視点も欠かせません。そこで、本専攻では文理融合も含めた学際性を重視し、複眼的な視座からの教育研究の仕組みを設立当初から採りいれています。

また、国際性という面では、問題を見出し、その解決策を探るためのフィールドを黒潮圏を中心とした地域に求めています。黒潮は高知大学が立地する土佐湾を横切る海流です。その源はフィリピン沖にあり、フィリピンと台湾の東方を抜けて、房総半島沖に至ります。黒潮に接する黒潮圏の社会は黒潮がもたらす資源やエネルギーを共有しています。その一方で、民族や文化、さらには経済発展にも少なからぬ差異のある地域となっています。黒潮圏の共通性は圏内の異なったフィールドの教育研究を貫く問題意識と成果の共有を促し、その多様性は、教育研究の成果を黒潮圏外にも適用できる可能性を拓く機会を与えています。

2014年からは、「黒潮圏の持続型社会形成を目指す人材育成プログラム」を立ち上げました。沿岸域における海洋資源の過剰採取を抑えつつ、地域住民の所得向上を図るための方策を3つの科目(社会経済調査法学習、健康機能性解析学習、調理加工開発学習)によって習得する教育プログラムです。このプログラムを足がかりに、今後も、学際性と国際性の理念を一層反映できるような新しい教育プログラムや研究プロジェクトを計画・展開します。