高知大学海洋生物研究プロジェクト

本研究の概要

プロジェクト名

海洋生態系の解明とその資源の持続的有効利用

プロジェクトリーダー 黒潮圏海洋科学研究科教授 奥田一雄

本研究プロジェクトの背景

新しい切り口での、黒潮圏の環境保全と資源の持続的有効利用の実現

 本研究プロジェクトで扱う「海洋生物」に関する研究チームは,高知県の周辺海域をはじめとした黒潮圏における特徴的な3つのフィールド,すなわち「サンゴ群生域」・「四万十川河口域」・そして「島嶼地域」の生態系を,生態学・微生物学・生理学・分子生物学・遺伝学・病理学・高分子有機化学・天然物生理活性物質化学等の様々な分野の自然科学者のみならず,人文・社会科学の研究者も加えて組織された.本プロジェクトは,黒潮圏の生態系における多様な生物群集の生業(なりわい)を明らかにするという基礎的な研究の側面を持つ一方で,様々な物質を介した生物相互作用を明らかにすることで,そのなかに隠された未知の有用生物や生理活性物質の発見とその有効利用が期待できるという応用研究の側面もある.また,黒潮を共有する諸国の沿岸域における生態系の変化と社会経済的インパクトの相互関係を調査し,比較的データが豊富な温帯域と,十分ではない亜熱帯・熱帯域の態様を均等の視点で分析できる学術情報を集積したデータベースを構築し広範な利用に資する.

異分野融合型の学際的プロジェクト

 本研究プロジェクトは,これまでのように狭い専門領域の研究者のみで組織されているのではなく,様々な専門分野の研究者が集まって構成されている異分野融合型の学際的プロジェクトである.このように全く新しい切り口で黒潮圏の環境保全と資源の持続的有効利用を実現することは,高知大学に課せられた極めて重要な研究課題の一つであるとともに,新規な学問分野の創造につながることも期待される.

 

本研究プロジェクトの目的・目標

本「海洋生物」プロジェクトは,以下の3つのサブテーマより課題研究を構成し、それぞれの内容をより深めることを目指す.

  • 1)サンゴ礁海域の多様な生物群集の相互作用および物質循環に関する研究
  • 2)四万十川と黒潮の交錯圏における人間と自然との共生に関する研究
  • 3)新海洋秩序の形成へ向けた黒潮圏島嶼諸国の統合的資源管理

1)サンゴ礁海域の多様な生物群集の相互作用および物質循環に関する研究

課題研究1では,サンゴの生産する粘液を始めとした様々な有機物の,サンゴ礁生態系における物質循環に対する寄与や,複雑なサンゴ礁生態系での生物相互作用を,生態学・生理学・物質化学・免疫学等の様々な側面から総合的に検討・解析し,その中から有用生物や有用生理活性物質等の機能性物質を探索することを目的としている.

サンゴ(エンタクミドリイシ)の白化現象(高知県大月町柏島、2007年、黒潮実感センター・神田優氏の提供)  温帯域の高知県柏島でもサンゴの白化が(2006年、黒潮実感センター・神田優氏の提供)

 

2)四万十川と黒潮の交錯圏における人間と自然との共生に関する研究

課題研究2では,四万十川の保有する生物生産の包容力と多様性の原因として,足摺岬にぶつかる黒潮による渦流生成と四万十川流域から供給される栄養塩類供給に焦点を当てて,四万十川流域を縦軸に,黒潮流域を横軸にした交差圏全体が自然と人が共生している環境という理解の下に,その因果関係を自然科学的および社会科学的に明らかにして行くことを目的としている.

CTDでの海洋観測風景 横浪半島沖でのアユ仔魚の採集風景

 

3)新海洋秩序の形成へ向けた黒潮圏島嶼諸国の統合的資源管理

課題研究3では,国連海洋法条約の下で,新海洋秩序の確立へ向けた新しい法的枠組みとルールの策定検討が進められているなかで,海底・海水・海洋資源を含めた三次元の膨大な空間が沿岸国の管轄するところとなっていることから,大陸棚を含めた黒潮圏域島嶼域の海洋資源や環境を巡る社会経済状況を調査・研究し,新たな海洋政策に学術的知見を提示することを目的としている.

ユーキューマ(キリンサイ)の養殖 アマモ場