研究概要

高知大学 プロジェクト「黒潮圏科学による地域社会の温暖化適応策の構築」ホームページ

【目的・目標】

フィリピンを起点に海域東南アジアから台湾を経て我が国に連なる黒潮圏において、食料生産と、それに密接に関連する沿岸域の藻場、サンゴ礁、及び河川の生態系への温暖化への影響を検証し、それらの適応策を研究する。特に、生態系への影響は、人為的インパクトによる生態系の劣化が温暖化によって大幅に昂進する可能性に着目し、そのような生態リスクを人間社会の側で受け止め、人為的影響を地域社会が主体的に制御することを通して環境変化の適応す
る方策を検討する。

このような変化に対する対応策を自然への働きかけの形を軸に分類すると以下の3つに整理できる。

(1)温暖化へ適応した食料生産技術の革新

(2)生態リスク管理による温暖化の影響の緩和

(3)温暖化環境下での新資源の開発

 

【必要性・緊急性】

近年の平均気温の上昇傾向は、高知県において食料生産や沿岸域の生態系に甚大な影響を及ぼしつつある。たとえば、稲作農業では、もみにデンプンが集積しない白未熟粒の割合が増大して品質劣化と反収減が進んでおり、沿岸生態系では、土佐湾の低温性のカジメ藻場のいくつかがこの数年で消失ししている。また、カジメに依存していたアワビの漁獲がゼロになった地域もある。さらに、白化現象による造礁サンゴ群集生態系崩壊のリスクが高まっており、河川では、アユ資源の顕著な減少が見られ、海温上昇により稚魚の生残率が大幅に低下している点が指摘されている。こうした温暖化がもたらす地域の社会や自然への負荷は年々増大する傾向にあり、その影響を最小化する適応策の検討はまさに急務といえる。

 

【独創性・新規性等】

以下の3点に整理できる。

(1)地域に立脚した温暖化適応策の検討:

従来の温暖化対策は原因物質の発生を抑制する緩和策に重点があった。しかし、本研究では、着実に進む温暖化の現象が引き起こす自然・社会的な変化への対処や準備に焦点をあて、地域に応じた適応策を具体的に検討する点に特徴がある。

(2)適応策の予防的確立:

黒潮圏におけるフィリピンや台湾を含む各国・地域における変化を連続的に観察することで温暖化が日本に及ぼす影響を早期に発見し、適応策を事前に検討する仕組みを提示する点に独自性がある。

(3)文理融合的な研究体制:

温暖化は、人為的インパクトに由来する事象であるため、社会科学が自然科学と融合しなければ有効な適応策を提示できない。本研究では、経済学、法学、農学、水産学などを横断する体制を整え、学際的な展開を目指している。

なお、環境省では地球温暖化影響・適応研究委員会を設置し、平成19年度から検討を始めたが、現段階では「賢い適応」のあり方を包括的に検討する段階にあり、本研究のように地域を限定して具体的に対策を検討するものではない。