はじめに

 地球磁場は太陽から到来する太陽風などの高エネルギー放射線に対するバリアーとしての役割を果たすなど、地球環境を構成する重要な要素の一つです。しかし、その進化の解明は途上であり、最も基本となる地磁気極性反転史についても、その連続時間変遷は地球史46億年のうち過去約1億6千万年間が解明されるに留まっています。なかでも、地磁気強度の変動については、その連続時間変遷の概略の確度をもった解明は、僅か過去約200-300万年間についてのみに留まっているという状況にあります。

 過去の地球磁場環境の姿を知り、その変動のメカニズムを明らかにするためには、掘削試料などの地質試料の磁性計測に基づいて、古地磁気的手法により過去に遡って地球磁場変動の様子を調べる必要があります。また、古地磁気研究の信頼性を向上させるためには、関連する様々な岩石磁気学的な基礎研究にも取り組む必要があります。

過去の地球磁場強度変動に関する研究





 過去の磁場変動のなかでも、強度、すなわち古地磁気強度の推定は、おもに火山岩および海底堆積物が保持している残留磁化を分析することで行うことが可能です。

 火山岩からは古地磁気強度絶対値の離散的な時間変動の推定が可能で、従来法に代わる新しい強度推定法「綱川・ショー法」の開発・実用化に取り組んできています。この新方法を、日本を含む世界各地から採取した火山岩試料に適用した結果、最近の約30万年間および約1億年前の古地磁気強度の平均は現在の強度とほぼ同じであるのに対して、これらの期間以外の過去数千万年間における古地磁気強度は平均的には現在の強度の約半分であり、また、逆転時や地磁気エクスカーション時には現在の約1/10程度まで強度が減少していたことなどが分かってきています。さらに、火山岩と同じ種類の残留磁化(熱残留磁化)を獲得する試料として、被熱を受けた考古遺跡からの試料に着目して強度推定を試みる研究にも取り組んできています。

 海底堆積物からは古地磁気強度相対値の連続時間変動の推定が可能です。北西太平洋・赤道太平洋から採取した海底堆積物試料を対象に、過去25万年間および過去1200-4200万年間の変動を明らかにする研究に取り組み、これらの期間には、強度は極性逆転時には通常の10%程度まで減少し、加えて、同一極性期間にも極大が極小の10倍以上にも達する振幅を伴う極めて大きな変動をしていたということなどが分かってきています。

 最近は、日本周辺やアイスランドを中心とした地域の溶岩・堆積物・考古資料を対象として研究を進めています。



岩石磁気学的な基礎研究および関連する諸研究



 火山岩試料に関しては、新方法「綱川・ショー法」に関わる岩石磁気学的な基礎研究、従来法による強度推定の研究、古地磁気方位を復元する研究、放射年代に関する研究、基礎的な岩石磁性の研究などにも取り組んでいます。

 堆積物研究においては、古地磁気極性層序に基づいて信頼性の高い堆積年代モデルを構築する必要があり、関連研究にも取り組んできています。これらのモデルに基づく古海洋学的研究や、堆積物の基礎的な岩石磁性、その応用による古環境変動研究などにも取り組んできています。さらに、堆積物の残留磁化を担う重要な磁性鉱物として磁性細菌起源の磁鉄鉱にも注目し、関連研究にも取り組んできています。

 そのほか、超高感度SQUID磁力計に関わる応用研究、海底資源として注目されているマンガンクラストの成長速度を推定した研究に加え、掘削試料の方位を決定してその結果を利用した構造地質学の研究や、地学教育に関わる研究、掘削試料の凍結保存に関わる研究、歴史南海地震に関わる研究などにも取り組んできています。岩石磁気学的なアプローチが少しでも可能な研究について、積極的な取り組みを進めています。