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2005年5月の「今月の魚」
トカゲハダカ Astronesthes ijimai Tanaka, 1908(ワニトカゲギス目トカゲハダカ科)

 トカゲハダカ科(あるいはワニトカゲギス科トカゲハダカ亜科)魚類は,世界の中深層域に生息する深海性のグループです.最大の種は,全長およそ30 cm に達します.本科魚類は,体が側扁し,中程度に細長く,下顎には長いひげをもちます.また,ひげの先端や眼の後下方には発光器を,体の下方には発光器列を備えます.本科魚類は,日本近海からは5属16種が知られています.トカゲハダカは全長約 15 cm に達する小型種で,相模湾以南の南日本の太平洋岸沖からインドネシアにかけての西部太平洋,インド洋に広く分布します.

 トカゲハダカは,1908年に田中茂穂博士の2新属6新種の記載論文の中で,相模湾産の5個体の標本をもとに,新種として発表されました(原記載の図はこちら).種小名は当時の東京帝国大学理学部生物学科(第1講座)教授の飯島魁(いさお)博士に献名され,現在も有効種とされています.一方,同論文中で新亜属新種として記載されたミツクリエナガチョウチンアンコウ Ceratias (Paraceratias) mitsukurii の種小名は,同時期に東京帝国大学理学部生物学科(第2講座)教授であった箕作佳吉博士に献名されたものです.しかしながら,ミツクリエナガチョウチンアンコウは,後に他種のジュニア・シノニムとみなされたため(現在の学名は Cryptopsarus couesii Gill, 1883),標準和名にのみ箕作博士の名前が残る結果となりました.もしも,田中博士が逆に種小名を付けていたならば,トカゲハダカの学名は "Astronesthes mitsukurii" に最も長い日本産魚類の標準和名は「イイジマエナガチョウチンアンコウ」になっていたかもしれません.ちなみに,1908年の論文では両種の和名は提唱されておらず,その後の Jordan, Tanaka and Snyder (1913) "A catalogue of the fishes of Japan" の中で和名が付けられています(この中での学名は,Paraceratias mitsukurii ).

参考文献
Jordan, D. S., S. Tanaka and J. O. Snyder. 1913. A catalogue of the fishes of Japan. J. Coll. Sci. Imp. Univ. Tokyo, 33(1): 1-497, 396 figs.
Tanaka, S. 1908. Notes on some rare fishes of Japan, with descriptions of two new genera and six new species. J. Coll. Sci. Imp. Univ. Tokyo v. 23 (art. 13): 1-24, Pls. 1-2.

写真標本データ:BSKU 51871, ca. 90 mm SL, 2000年8月26日,土佐湾中央部,水深 800 m,調査船こたか丸採集.

(遠藤広光)


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