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2002年 4月
フエカワムキ Macrorhamphosodes uradoi (Kamohara, 1933) (フグ目ベニカワムキ科)

 フエカワムキはやや深い大陸棚から大陸斜面にかけて生息する小型の魚類です.日本のほかにもニューカレドニアや南アフリカなどに分布します.本種は蒲原先生により1933年に新種記載されました.種小名のuradoiは,この標本が採集された高知市の浦戸に由来しています.

 フエカワムキの特徴に,ストロー状に伸びた吻の先に小さな口をもつというものがあります.フエカワムキには,この口が右や左にねじれている個体が数多くいます.つまり,人間の右利き・左利きのように,この魚にも左右性が存在します.

 フエカワムキは大陸棚上に生息するため,観察例がなく,生態もあまり明らかではありません.しかし,胃の中から多数の魚の鱗が見つかることから,ほかの魚の鱗を食べる“スケルイーター”であると考えられています.魚の鱗を食べるということは奇妙に思えるかも知れませんが,意外と多くの魚が鱗を餌にしています.たとえば,タンガニイカ湖のシクリッド(カワスズメ科)の数種や熱帯域のカラシン科の数種,身近なところではコトヒキなどがスケルイーターであるとされています.フエカワムキと同じ科のソコカワムキの胃からも鱗が確認されています.フエカワムキは,尾鰭の形などから,速く泳ぐことが苦手な魚であると推測されます.泳ぎが遅い本種が鱗を食べるとき,ほかの魚に気付かれずに接近する必要があります.現在では,接近方法や摂餌方法は,長い吻や左右にねじれている口などをもとに推測することしかできません.

 サンゴ礁や超深海の生態も興味深いですが,大陸棚上の魚類の生態も非常に興味深く,驚くべき魚の戦略がたくさん発見されるのではないでしょうか.はやく見てみたいものですね.

参考文献
Kamohara, T. 1933. On a new fish from Japan. Zool. Mag., 45 (539): 389-393.
Matsuura, K., Tyler, J. C. 1997. Tetraodontiform fishes, mostly from deep waters, of New Caledonia. Mem. Mus. Natl. Hist. Nat., 174: 173-208
Nakae, M., Sasaki, K .2002. A scale-eating triacanthodid, Macrorhamphosodes uradoi: prey fishes and mouth "handedness" (Tetraodontiformes, Triacanthoidei). Ichthyol. Res., 49: 7-14.
Sazima, I. 1983. Scale-eating in characoids and other fishes. Environ. Biol. Fish., 9: 87-101.

写真標本データBSKU 52380 (143.1 mm SL), 2000年11月6日, 御畳瀬魚市場(大手繰)で採集.

(中江雅典)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University