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2002年 11月
セレベスゴチ Thysanophrys celebica (Bleeker, 1854)(カサゴ目コチ科)

 セレベスゴチは伊豆半島東部の伊豆海洋公園と富戸の水深10〜20mで採集された7個体の標本に基づき,日本初記録集として報告されました(瀬能・中坊,1992).本種は,東アフリカ沿岸(ダーバン,ザンジバル)のインド洋から西部太平洋沿岸(オーストラリア,フィリピン)にかけて広く分布することが知られています.日本では伊豆半島からの記録のみですが,高知県では土佐市宇佐井の尻の水深50cm〜1mで計3個体の標本が採集され,南西部の大月町柏島でも本種を確認しています(下記の水中写真).また,以布利で行われた水中観察でも確認されています(中坊ほか,2001:以布利 黒潮の魚).日本産のクロシマゴチ属(Thysanophrys)には,本種の他にクロシマゴチ (T. chiltonae Schultz) が知られています.本種は眼上に小皮弁があることや臀鰭軟条数が13であることなどで,クロシマゴチと識別できます.

 Imamura (1996)は,形態形質を用いて推定したコチ科魚類38種の分岐仮説(分岐学的手法により得られた系統類縁関係の仮説)に基づき,それまでThysanophrys (それまでの和名はスナゴチ属)に含められてきた T. arenicola(スナゴチ)を模式種として,新属 Eurycephalus を設立しました.この属には,日本産では他にフサクチゴチ (E. otaitensis)も移されています.従来のスナゴチ属にスナゴチが属さないというのは極めて不自然であり,混乱を避けるために属の和名はEurycephalus に対してスナゴチ属が,Thysanophrys に対してクロシマゴチ属が使われることになりました(今村,1998;中坊,2000).

参考文献
Imamura, H. 1996. Phylogeny of the family Platycephalidae and related taxa (Pisces: Scorpaeniformes). Species Diversity, 1(2): 123-233.
今村 央.1998.Thysanophrysの和名.魚類学雑誌,44(1): 62-63.
中坊徹次.2000.コチ科.中坊徹次(編),pp. 615-620, 1530-1531, 日本産魚類検索:全種の同定(第2版).東海大学出版会,東京.
瀬能 宏・中坊徹次.1992.伊豆半島から採集された日本初記録のセレベスゴチ.I.O.P. Div. News, 3(7): 4-5.

写真標本データBSKU 59078 (ca. 12 cm SL), 2002年6月25日, 高知県土佐市宇佐井の尻,実験所前の磯で採集(採集者:野川悠一郎).


 2000年8月5日,高知県大月町柏島竜の浜,水深4m(撮影:遠藤広光)

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University