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2003年 1月
ミナミヒメジ Upeneus vittatus (Forsskal, 1775) ( スズキ目ヒメジ科 )

 ヒメジ科魚類は,熱帯から温帯の水深100m以浅の大陸棚上,内湾の砂泥底,岩礁域やサンゴ礁域に生息し,世界で6属約55種が知られています.そのうち,日本周辺にはヒメジ属 Upeneus,アカヒメジ属 Mulloidichthys,ウミヒゴイ属 Parupeneus の3属22種が分布します.ヒメジ属のミナミヒメジは,日本では土佐湾以南に分布し,体側および背鰭と尾鰭にある縞模様,とくに第1背鰭上端と尾鰭下葉にある太く明瞭な黒色帯により他種と識別できます.
 本科魚類は,下顎下面に発達した長い一対のひげをもつこと,2つの背鰭がよく離れること,尾鰭の後縁が深く切れ込むことなど,数多くの共通した形態的特徴をもちます.ひげには味蕾があり,これを自由自在に動かして,砂や砂泥の海底下に潜む餌生物を探します.このひげは,舌弓に付着する鰓条骨のうち,最前方の一本が舌弓前端へ移動し,変形したものです.靭帯を介して舌弓とひげの根元を繋ぐ4つの筋肉要素により,ひげは驚くほど速く細やかに動きます.ヒメジ科と同様のひげをもつギンメダイ科でも,ひげの動きは4つの靭帯と筋肉要素により制御されています.しかし,それらの要素の付着部位や配置,骨の形や位置は異なっています.ギンメダイ科のひげは,骨ではなく結合組織のかたまりへと変化したものです.2つの科の系統的な位置はかなり異なるので,両者のひげはそれぞれ独自に進化したものと考えられます.
 ヒメジ科魚類の英語名 "goatfish" の由来は,ヤギを連想させる立派なひげにあることは間違いないでしょう.

参考文献
Kim, B-J. 2002. Comparative anatomy and phylogeny of the family Mullidae (Teleostei: Perciformes). Mem. Grad. Sch. Fish. Sci. Hokkaido Univ., 49 (1): 1-74.
Kim, B-J., M. Yabe and K. Nakaya. 2001. Barbels and related muscles in Mullidae (Perciformes) and Polymixiidae (Polymixiiformes). Ichthyol. Res., 48 (4): 409-413.

写真標本データ:BSKU 60658, 2002年10月24日, 高知県幡多郡大方町上川口漁港で採集.

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University