今月の魚リストへ戻る


2003年 6月
ホカケトラギス
Pteropsaron evolans Jordan et Snyder, 1902 (スズキ目ホカケトラギス科)

 ホカケトラギス科魚類 (Family Percophidae) は,世界で13属およそ40種が知られています.Nelson (1994) では,本科は3つの亜科,Percophinae, Bembropinae および Hemerocoetinae に分類され,このうち日本周辺には後者2亜科に属するそれぞれ7種および6種(合計13種)が分布します.土佐湾には全ての種が出現します.Bembropinae に含まれるイバラトラギス属 (Chrionema)と アイトラギス属 (Bembrops)の種は最大体長が 20 cm を越えるのに対し,本種が属する Hemerocoetinae の種は,いづれも小型で最大体長も 6〜10cm程度です.
 ホカケトラギスは,水深100m前後(〜150m)の砂泥底に生息し,底曳き網などで極めて稀に採集されます.日本の太平洋沿岸では相模湾から土佐湾にかけて,日本海側では島根県浜田市沖からの採集記録があります.本種は,吻端に一対の棘をもつこと,頬に鱗がないこと,第1背鰭の棘が6〜7本であること,雄では写真のように第1背鰭と臀鰭の鰭条が長いことなどにより他種と区別できます.本種の生鮮時の体色は,これまでにほとんど知られていませんでした.また,採集直後の標本(ともに雄)では,体側に紫がかった鮮やかなピンク色の幅広い縦帯がありますが(黄色縦帯に重なり,そのやや下側に位置する),研究室に持ち帰り,鰭立てをする頃にはほとんど消失していました.本種の雄は,このピンク色の鮮やかな縦帯と特徴的な長い鰭条により,採集時にはホカケトラギス科の他の小型種との識別は容易です.本種の雌は,はたしてどのような体色なのか,気になるところです.

参考文献
Nakabo, T. 2002. Percophidae. Pages 1065-1068, 1587-1588 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition.Tokai University, Press, Tokyo.
Nelson, J. S. 1994. Fishes of the world (3rd ed.). John Wiley & Sons, New York. 600 pp.

写真標本データ:BSKU 64447, 53 mm SL, 2003年5月19日, 土佐湾中央部水深150m,調査船こたか丸採集.*BSKU 64446, 54 mm SL, データは同上.

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University