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2004年 3月
チカメエチオピア
Eumegistus illustris Jordan et Jordan, 1922 (スズキ目シマガツオ科 )

 シマガツオ科には,世界の熱帯から温帯海域に分布する7属約20種が知られています.そのうち,チカメエチオピア属 (Eumegistus) は,太平洋産のチカメエチオピアと大西洋産の E. brevorti の2種のみを含みます.チカメエチオピアは,本科の中では稀種で,ハワイ諸島(基産地)やポリネシア,南日本沿岸の相模湾(真鶴),土佐湾(御畳瀬魚市場),九州-パラオ海嶺,沖縄島での採集記録があります.本科の多くの種は,外洋の水深 200 m 以浅の表層域に群で生息します.しかし,チカメエチオピアは水深 275〜620 mで記録されており,本科の中では最も深い水深帯に出現します.また,シマガツオ Brama japonica Hilgendorf などは夜間には表層域へ浮上したり,南北への季節的な回遊を行うことが知られています.

 チカメエチオピアは,アメリカ合衆国の高名な魚類学者であるDavid Starr Jordan が,1921年8月にハワイのオアフ島のホノルルに滞在した際に市場で購入した1個体の標本を基に,新属新種として記載されました(Jordan and Jordan, 1922).その原記載には,ホロタイプの体長が約 60 cm(2フィート),重さは4キロ弱(9ポンド近く)で,購入時に半身の肉はすでになかったとの記述がありました(ホロタイプ原図の白色部分).シマガツオ科魚類は,成長により体のプロポーション,鰭の形や長さなどがかなり変化することが知られています.本種のホロタイプの原図を見ると,体型や尾鰭の形は写真個体と随分異なり,ヒレジロマンザイウオの尾鰭のようです.ホロタイプが成熟個体だとすると,本種の尾鰭は成長に伴い後縁中央の張り出し部分が次第に短くなり,ほとんど目立たなくなって,その縁辺も白くなることが考えられます.それとも, Jordan and Jordan(1922)が記載した種と私たちがチカメエチオピアとしている種が異なっているのでしょうか?

 チカメエチオピアの「エチオピア」は,シマガツオに対して用いられた地方名です.その名前は,昭和9年(1934年)にエチオピアの皇太子が日本へお嫁さんを捜しに来た頃,相模湾でシマガツオが大量に漁獲されたことに由来するようです.その後,三浦半島周辺や東京の市場などで広く使われるようになり,チカメエチオピアやツルギエチオピアの標準和名の中に登場しています.

Fishbase に掲載されているチカメエチオピアの写真(J. E. Randall 撮影: 50 cm SL, 63 cm TL)はこちら

参考文献

Jordan, D. S. and E. K. Jordan. 1922. A list of the fishes of Hawaii, with notes and descriptions of new species. Mem. Carnegie Mus., 10 (1): 1-92, 4 pls.
Last, P. R. and M. Moteki. 2001. Bramidae. Pages 2824-2836 in K.E. Carpenter and V.H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the Western Central Pacific. Volum 5. Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome.
望月賢二.1984.シマガツオ科.益田一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).pp. 154-155,日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.
谷津明彦1997.シマガツオ科.Bramidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 328,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.

写真標本データ:BSKU 68721, 40 cm SL. 2004年2月20日,高知県高知市御畳瀬魚市場で採集(採集:野川悠一郎・遠藤広光;撮影:野川悠一郎).青バックの標本写真はこちら

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University