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2004年 6月
ソコヌメリ
Bathycallionymus sokonumeri (Kamohara, 1936)(スズキ目ネズッポ科)

 ソコヌメリは南日本太平洋岸沖の水深150〜200mの大陸棚縁辺域に生息するネズッポ科魚類です.日本産のトンガリヌメリ属 Bathycallionymus は,本種とトンガリヌメリ B. kaianus Gunther , クジャクソコヌメリB. formosanus (Fricke) の3種のみです.本種は第1背鰭の第1棘が短いこと(第2棘とほぼ同長),雄では第2背鰭前上方先端に黒色斑がないことで他種と区別されています.

 ソコヌメリは1936年に蒲原稔治博士により Callionymus sokonumeri として新種記載されました.この記載に使われた全長173 mm のホロタイプ標本は,土佐湾の水深およそ150m(80尋)で漁獲され,高知市御畳瀬魚市場に水揚げされたものでした.ところが,このタイプ標本は第二次世界大戦時の空襲(1945年)により焼失してしまいます.蒲原博士は,戦後ふたたび採集した標本をもとに失われたタイプ標本の種についてネオタイプ指定を行いました(現在の動物の学名命名規約と照らし合わせると無効).しかし,この時点で土佐湾から新たなソコヌメリの標本は採集されていませんでした.その後,ソコヌメリはNakabo (1982) が設立した新属のBathycallionymus に含められました.一方,Fricke (1983) はこの属を独立属とは認めず,ネズッポ属Callionymus の亜属としています(Bathycallionymus はFricke の C. kaianus 種群に相当).また,近年日本ではネズッポ属に Repomucenus が使われています.これは現在Callionymus に属する種が地中海からヨーロッパの沿岸に分布しており,過去にCallionymus にひとまとめにされていた太平洋やインド洋産の種が別属に移されたためです.ネズッポ科魚類の分類体系,亜属や属の定義について,中坊徹次博士とRonald Fricke博士(ドイツの魚類学者)の一連の研究による見解の相違は極めて大きいことから,現在2通りの分類体系が使用され混乱を招いています.日本では,多くの骨格系の形態形質を用いた中坊博士の系統仮説に基づく分類体系に従っています.

参考文献
Fricke, R. 1983. Revision of the Indo-Pacific genera and species of the dragonet family Callionymidae (Teleostei). Theses Zool. v. 3: 1-774.
Kamohara, T. 1936. Two new deepsea fishes from Japan. Annot. Zool. Jpn. v. 15 (no. 4): 446-448.
Nakabo, T. 1982. Revision of genera of the dragonets (Pisces: Callionymidae). Publ. Seto Mar. Biol. Lab. v. 27 (no. 1/3): 77-131.

写真標本データ:2004年3月8日,高知市御畳瀬魚市場(大手繰),122 mm SL,白バックの写真はこちら

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University