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2004年 9月
リュウグウベラギンポ Trichonotus elegans Shimada et Yoshino, 1984(スズキ目ベラギンポ科)

 ベラギンポ科魚類はベラギンポ属のみを含み,インド-太平洋海域から9種が知られ,そのうち日本にはベラギンポ,クロエリギンポ,リュウグウベラギンポの3種が分布しています.ベラギンポ科魚類は、水深5-50mの砂地に生息し,ハーレムを作ることが知られ、雄は最大で全長20 cm まで成長し、雌は雄よりも小さく,体色や鰭の長さなど明らかな雌雄差が見られます。

 リュウグウベラギンポは,沖縄県八重山諸島の鳩間島から採集された標本をもとに記載されました.琉球諸島の水深10-30mの砂地での生息が確認されていますが,インドネシアやインド洋のモルジブ諸島の沿岸でも水中写真が撮影されています。高知県沖の島では今回初めて標本を採集したので,南日本での分布の北限記録となります。本種は紅海に分布するT.nikiiによく似ますが,体側線前方の上下に無鱗域があることで,本科の他種全てと区別できます。また、本種の雄では背鰭棘の3本が長く伸長すること、雌では背鰭前端に白く縁取られた黒斑をもつことが特徴です(雌雄の写真はこちら)。日本産の他種に比べ,水中では体色が薄く,全体的に白く見えます.海底直上では潮の流れに対して,その場でホバリングするように遊泳します。リュウグウベラギンポの和名は,その美しい体色と細長い体を波打たせて遊泳する行動に由来します。

 リュウグウベラギンポのハーレムは,1個体の雄に対し,約12個体の雌によって構成されます。また,ハーレムに違う雄が入ってくると,ディスプレイによる威嚇が行われます。さらに,本種はメスからオスへと性転換をすることが分かっています。

 英語名でサンドダイバーと呼ばれるベラギンポ科魚類は,敵が近づくと頭からすばやく砂に潜り,頭部先端だけを出し様子をうかがう行動を見せます。その行動は種によって違いがあり、リュウグウベラギンポは他種に比べあまり砂に潜らず,泳いで逃げることの方が多いようです。

引用文献
Shimada,K.and Yoshino,T. 1984 A new trichonotid fish from the Yaeyama Islands, Okinawa prefecture, Japan. Jpn.J.Ichthyol.15-19.
吉野哲夫・島田和彦. 1984. ベラギンポ科. 益田一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).pp. 279-280, 日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.
岡村 収.1997.ベラギンポ科.Trichonotidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 328,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.

写真個体:BSKU 71966, 129.4 mm SL, オス,2004年7月19日,高知県宿毛市沖の島,水深12m.雌雄の写真はこちら(メス 91.6 mm SL).

(片山英里)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University