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2005年 2月
ヨゴレヘビギンポ
Helcogramma nesion Williams et Howe, 2003(スズキ目ヘビギンポ科)

 ヘビギンポ科 (Family Tripterygiidae) は,熱帯から温帯のサンゴ礁や岩礁のある浅海域に生息する体長5cm前後の小型魚類で,3つの背鰭をもつことが大きな特徴です.科名の Tripterygiidae (3つの翼の意味)も,英語名の triplefins もこの特徴に由来します.本科には12属130種あまりが知られ,まだ分類学的にも多くの問題を含んでいます.日本周辺に本科魚類が何種分布するのかも不明であり,現在研究が進められているところです.
 クロマスク属 (Genus Helcogramma) は,世界で31種が知られています (Williams and Howe, 2003). その中で,ヨゴレヘビギンポは,上顎前方から眼下を通り頬部上方まで斜めに走る鮮やかな青色の線をもつ H. fuscopinna species complex に属します.Williams and Howe (2003)の分類学的再検討により,このグループには11種が含まれることが判明し,本種を含む7種が新種として記載されました.この研究以前には,H. fuscopinna Holleman, 1982 がインド-西部太平洋の熱帯から温帯域に広く分布すると考えられ,日本産の本種の学名には,H. fuscopinna が用いられてきました(吉野, 1988; Hayashi, 2002).本種は高知,伊豆諸島および小笠原諸島で記録され,日本周辺にのみに分布することが明らかとなっています.
 ヘビギンポ科魚類では,雌雄で体色や斑紋が大きく異なります.多くの雄は繁殖期にはなわばりをもち,体には派手な婚姻色が表れます.とくに,雄では写真のように,頭部の下半分が黒くなります.Helcogramma の属名の「クロマスク」もこの特徴に由来するようです(写真1).ヨゴレヘビギンポの雄は,深紅の鮮やかな体色,黒色の頭部下面や鰭,眼の下にある蛍光色の青いラインや胸鰭基部に青い斑点(写真2)をもち,雌とは全く別の種のようです(写真3).しかし,水中でペアの行動を観察すると,すぐに同種とわかります.

参考文献
Hayashi, M. 2002. Tripterygiidae. Pages 1077-1086, 1590-1591 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species. English edition. Tokai University Press, Tokyo.
Williams, J. T. and J. C. Howe. 2003. Seven new species of the triplefin genus Helcogramma (Tripterygiidae) from the Indo-Pacific. aqua, J. Ichthyol. Aqua. Biol., 7 (4): 151-176.
吉野哲夫.1988.ヘビギンポ科.Page 281 in 益田一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫 編.日本産魚類大図鑑 第2版.東海大学出版会,東京.

写真標本データBSKU 55016, 47 mm SL,2001年7月10日,高知県宿毛市姫島,水深5m,採集者:遠藤広光,撮影:平田智法氏
高知県大月町勤崎で撮影:写真1(ペア)写真2(ペア)写真3(メス)(撮影:遠藤広光).

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University