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2005年12月
アカタチモドキ
Pseudocepola taeniosoma Kamohara, 1935(スズキ目アカタチ科)

 アカタチ科(Family Cepolidae) は4属19種を含み,平ひも状で体が極めて長いアカタチ亜科(Subfamily Cepolinae,2属7種) と体がややずんぐりして頭が大きく尾鰭が長いソコアマダイ亜科(Subfamily Owstoniinae,2属12種) に分類されています(Nelson, 1994).本科魚類の体色は,鮮やかな朱色や赤色であり,科名「赤太刀」はその体色と体型に由来します.本科魚類はいずれも底生性で,沿岸から大陸棚上の砂泥底にかけて生息します.また,アカタチ亜科の種は軟泥底に穴を掘って棲み,穴の上やその周辺で立ち泳ぎしながら餌を捕食する行動が知られています.
 日本産のアカタチ科魚類は4属8種で,そのうちソコアマダイ亜科は Owstonia totomiensis Tanaka, 1908 ソコアマダイ,O. grammodon (Fowler, 1934) ソコアマダイモドキ,O. tosaensis Kamohara, 1934 オキアマダイ,そして Pseudocepola taeniosoma Kamohara, 1935 アカタチモドキの4種です.Owstonia は,田中茂穂博士がソコアマダイの新種記載の際に設立した新属で,このホロタイプとなった標本は1906年に現在の静岡県浜松市沿岸(遠江 とおとうみ)で採集されました.また,この標本は日本の動物学研究に深く関わったAlan Owston 氏のコレクションに含まれていたため,属名はオーストン氏の名前に因んで付けられました.その後,蒲原稔治博士はオキアマダイとアカタチモドキを,それぞれ1934年と1935年に土佐湾の標本に基づき新種記載しました.1935年の論文で新種記載されたもう1種 O. japonica Kamohara, 1935 は,1年早く記載されたO. grammodon (Fowler, 1934) のシノニムとなっています.
 稀種のアカタチモドキは,アカタチ亜科魚類に類似した細長い体型をしていますが,鰭条のやや長い尾鰭は背鰭と臀鰭と連続せず,ソコアマダイ亜科に似ています.本種のタイプ標本は,他の標本と共に第二次世界大戦の空襲で焼失してしまいました.戦後に蒲原博士はふたたび標本を採集しましたが(おもに1950〜1960年代),それ以降最近になるまで,追加の標本は全く採集されていませんでした.写真の標本を含め,2000年以降に土佐湾西部の大方町や佐賀町で行われている沿岸の底びき網の漁獲物中に本種を数個体発見し,その生鮮時の体色を初めて眼にすることが出来ました.本種の標本のカラー写真は,まだどの図鑑にも出ていません.

参考文献
蒲原稔治.1934.高知市付近の魚類追記(VI).動物学雑誌,46(549): 299-303.
Kamohara, T. 1935. On the Owstoniidae of Japan. Annotations Zoologicae Japonenses, 15(1): 130-138.
Nelson, J. S. 1994. Fishes of the world. 3rd ed. John Wiley & Sons, Inc., New York. pp. 600.
岡村 收.2004.アカタチ科.p. 432 in 岡村 収・尼岡邦夫,編.日本の海水魚 第3版,山と渓谷社,東京.
Tanaka, S. 1908. Notes on some Japanese fishes, with descriptions of fourteen new species. J. Coll. Sci. Imp. Univ. Tokyo 23 (art. 7): 1-54, 4 pls.

写真標本データBSKU 75249, ca. 173 mm SL,2005年7月4日,高知県幡多郡佐賀町佐賀漁港で採集.
BSKU 54113, 2001年4月26日,高知県幡多郡佐賀町佐賀漁港で採集.
Owstonia tosaensis Kamohara, 1934 オキアマダイ BSKU 52070, 2000年10月5日,高知市御畳瀬魚市場(大手繰り網).

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University