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2006年7月
マンボウ
Mola mola (Linnaeus, 1758)(フグ目マンボウ科)

 やって参りました.今月はフグ目にお鉢が回って来ましたのでマンボウです.
 マンボウはフグ目マンボウ科に属する大型の魚類で,体長が最大で3m以上になり,3億個以上の卵を産むことが知られています.ただし,現在でも生態学的なことはよく分かっていません.高知県では主に晩秋から春にかけて定置網で漁獲されており,稀に食卓に上ります.
 マンボウの学名のMola molaの "mola" とはラテン語で臼歯という意味であり,その名前のとおりマンボウの上下の顎には一対の臼状の歯があります.また,体の筋肉の大部分が鰭を動かす筋肉(つまりヒラメやカレイなどの縁側と同じ筋肉)であり,食用とされている部位はすべて縁側ということになります.体に占める縁側の比率がヒラメやカレイの3倍以上あり,彼らなんて目じゃありません.つまりマンボウこそは隠れた縁側の王様,泳ぐ縁側なのです.またマンボウの脳はたいへん小さく,脳重量が体重の0.01%以下しかありません.これは他のフグ目魚類と比較して30分の1以下という大きさしかなく,乱暴に言っちゃうと「マンボウはあまりものを考えていない」ってことになります.
 近年の遺伝的な研究により,日本には遺伝距離の遠い2つのマンボウ集団が存在することが報告されています.日本周辺で採集された3m前後のマンボウのDNAと1m前後のマンボウのDNAが違ったわけです.今後の研究により,これら2タイプのマンボウが別種として認識されるかも知れません.そうなりますと,マンボウが3m以上になり,3億以上の卵を産んでいたのではなくて,“新しいマンボウ”が3m以上になり,3億以上の卵を産んでいたということになるかも知れません.わかっているようで,わかっていない,マンボウの世界もまだまだ奥が深いのです.

参考文献

Nelson J.S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York
Sagara K, Yoshita Y, Nishibori M, Kuniyosi H, Umino T, Sakai Y, Hashimoto H, Gushima K. 2005. Coexistence of two clades of the ocean sunfish Mola mola (Molidae) around the Japan coast. Jpn J Ichthyol 52:35-39

写真標本データ
BSKU 75162, 44 cm TL, 2005
年2月1日,静岡県伊東市富戸,定置網(写真撮影:中江雅典)
小型個体の標本写真はこちら

(中江雅典)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University