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2007年5月
ホオベニオトヒメハゼ
Vanderhorstia puncticeps (Deng et Xiong in Xu et al., 1980) (スズキ目ハゼ科)
 前回に引き続き,国立科学博物館の日本の新種記載プロジェクト第1弾 (Matsuura and Kimura, eds., 2007)で報告されたハゼ科魚類を紹介します.

 今回の新種記載プロジェクトで,Iwata et al. (2007)はヤツシハゼ属の大鱗グループ(体側鱗の大きなグループ)を分類学的に再検討し,その中で3新種を記載し,ホオベニオトヒメハゼを日本初記録として報告しました.本属はインド・西太平洋の温帯〜熱帯域に分布し,汽水域やサンゴ礁などの砂泥底で,テッポウエビ類と共生します.体は小型で細長く,尾鰭が長いことが特徴です.本属約11種のうち,日本には6種が分布するとされていました.しかし,近年水中写真により,本属は多くの未記載種を含むことが知られ,現在では既知種を含めると日本沿岸には約16種が分布すると考えられています(瀬能ほか,2004).Iwata et al. (2007)の3新種は,いずれも高知県西南端に位置する柏島で採集された標本に基づくものです: Vanderhorstia kizakura キザクラハゼ,V. rapa ナノハナフブキハゼおよびV. hiramatsui クロエリカノコハゼ.そのうちの,クロエリカノコハゼの種小名 "hiramatsui" は,本研究室OBでタイプ標本の採集者である平松亘氏に献名されました.ホオベニオトヒメハゼは,中国沿岸の東シナ海で採集された標本を基に,1980年にシノビハゼ属(Ctenogobius)の新種として記載され,その後の報告はありませんでした.Iwata et al. (2007)は本種を相模湾産の1個体(1952年に採集)と土佐湾産の2個体(2005年と2006年に採集)に基づき再記載し,その形態的特徴から帰属をヤツシハゼ属(Vanderhorstia)へと変更しました.本種は頬(鰓蓋部)の朱色の斑点と第1背鰭の先端が赤色であることが著しい特徴です.

 ヤツシハゼ属の多くは浅海に生息しますが,ホオベニオトヒメハゼはやや深場に生息するようです.写真の標本は中央水産研究所黒潮研究部の調査船こたか丸による底びき網調査により土佐湾中央部の水深120mから,相模湾産の標本も水深60mから採集されています.このような水深帯は,スクーバ潜水での採集が困難であり,これらの標本は偶然に底びき網で採集されたものです.こうした深場には,まだ数多くの未記載種が生息しているかもしれません.

参考文献
Iwata, A., K. Shibukawa and N. Ohnishi. 2007. Tree new species of the shrimp-associated Goby genus Vanderhostia (Perciformes: Gobiidae: Gobiinae) from Japan, with re-description of two related congeners. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl., (1): 185-205.
Matsuura, K. and S. Kimura, eds. 2007. New fishes of Japan: Part 1. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl., (1): i-iv, 1-205.
瀬能 宏・鈴木寿之・渋川浩一・矢野維幾.2004.決定版 日本のハゼ.平凡社,東京.536pp.

写真標本データ
BSKU 77244, 30.3 mm SL2006年2月2日, 土佐湾中央部,水深120-123m, 中央水産研究所調査船こたか丸採集,トロール網写真撮影:片山英里

(片山英里)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University