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2007年8月
シビレエイNarke japonica (Temminck et Schlegel, 1850)(エイ目シビレエイ科)
 シビレエイ科 (Family Narcinidae) は,エイ目シビレエイ亜目に属する軟骨魚類です.本科は世界では2亜科9属37種が知られ,日本では2属3種が報告されています(Nelson,2006).しかし,シビレエイ類の高位の分類体系は研究者により様々で,1科(Nakabo,2002)のみ,2科(Nelson,2006),あるいは4科(Carpenter and Niem,1999)とする意見があります.本文ではNelson (2006)の分類体系に従いました.このような分類学上の混乱を解決するためには,詳しく系統類縁関係を再検討する必要があります.

  シビレエイは南日本から東シナ海に分布し,沿岸のおよそ水深50mまでの砂泥底に生息します.本種は土佐湾では底曳き網漁でよく水揚げされますが,産業的価値が無いため研究や教育用の教材以外では利用されません.写真の標本は高知市浦戸湾内で行われた刺し網漁により,4mという浅い水深から採集された非常に珍しい個体です.

 シビレエイはゴカイ類や小型甲殻類などの無脊椎動物を食べます.体盤幅は約20cm,体長は約37cmになり,胎生で4〜6個体の胎仔を産みます(石原,1997).本科の体盤はほぼ円形で厚みがあり,小さな眼の直後に噴水孔があります.口は腹側にあり非常に小さく周囲にある溝は浅いです.背鰭は通常1基で,尾鰭は楕円形で2叉しません.最大の特徴は体盤の鰓域に一対の発電器官をもつことです.この器官は筋細胞が変化したもので,起電力は成魚で電圧が40〜80V,電流が40〜50Aに達します.この強い発電は餌となる動物を捕らえる時に用いられていますが,一方では捕食者から身を守るための防御手段として役立つと考えられています.

参考文献
Carpenter, K. E. and V.H. Niem, eds. 1999. The living marine resources of the western central Pacific, FAO species identification guide for fishery purposes. Vol.3, Batoid fishes, chimaeras and bony fishes part1 (Elopidae to Linophrynidae) 1397-2068 pp.
石原 元.1997.シビレエイ科.Torpedinidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),p. 52,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.
Nakabo, T. 2002. Fishes of Japan with pictorial keys to the species. 2nd ed. Tokai University Press, Tokyo. 1xi+1748 pp.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world. 4th ed. John Wiley & Sons, Inc., New York. 600 pp.
西田清徳.2001.シビレエイ科.Torpedinidae. 中坊徹次・町田吉彦・山岡耕作・西田清徳(編),p. 140,以布利黒潮の魚 ジンベイザメからマンボウまで.大阪海遊館,大阪.

写真標本データ

BSKU 90380,341 mm TL,2007年6月1日,浦戸湾内の刺し網漁,写真撮影:町田吉彦

(阿部芳勝)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University