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2007年9月
ナンヨウボラMoolgarda perusii (Valenciennes, 1836)(ボラ目ボラ科)
 ボラ科 (Family Mugilidae) は世界では2亜科17属72種あまりが,日本では7属15種が知られています(Nakabo,2002).本科の最大の特徴は,背鰭棘条の最初の3本の付け根が互いに接することです.大部分の種は河川の汽水域から沿岸域にかけて,一部は淡水域に生息します. 

 ナンヨウボラは,インド・西太平洋の熱帯から亜熱帯水域に広く分布し,日本周辺では東京湾以南の河口域から内湾の浅所に生息します.日本では幼魚が比較的多く見られ,成魚の記録は稀です (吉野・瀬能,1988).写真の個体は春野町甲殿川で採集された幼魚です.本種は眼に脂瞼が発達し,胸鰭基部上端に黒色斑があること,主上顎骨後端が露出しないことなどで同属他種と識別可能です.しかし,本科魚類はいずれの種も体型や計数形質が類似し,種の同定が難しいグループです.

 2002年に出版された高知県レッドデータブック(動物編)によると,本種は情報不足種に指定されています.2006年から2007年にかけて私たちの研究室が高知県汽水域で行った調査では,本種を多数確認しました.本種の成魚は比較的容易に同定できるのですが,体長35 mm 以下の個体では主上顎骨後端や脂瞼の形質がわかりづらく同定が困難です.日本沿岸に出現する本種の個体のほとんどは幼魚のため,近似種との識別ができずに正確な生息状況が把握できていません.同じく,幼魚の同定が困難なコボラ(Chelon macrolepis Smith,1846)も情報不足種に指定されています.今後,幼魚期でも有効な分類形質の発見により,情報不足種という見解は変更されるかもしれません.

参考文献
高知県レッドデータブック[動物編]編集委員会(編).2002.高知県レッドデータブック[動物編].高知県文化環境部環境保全課,高知県,470pp.
Nakabo, T. 2002. Fishes of Japan with pictorial keys to the species second edition. Tokai University Press, Tokyo. 1xi+1748 pp.
吉田哲郎・瀬能 宏.1988.ナンヨウボラ.(益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫,編:日本産魚類大図鑑).p. 117. 東海大学出版会,東京.

写真標本データ
BSKU 89438, 43.1 mm SL, 2007年1月19日,春野町甲殿川,手網採集,写真撮影:石川晃寛

(石川晃寛)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University