今月の魚リストへ戻る
2008年2月
ハナフエダイ Pristipomoides
argyrogrammicus (Valenciennes, 1832)(スズキ目フエダイ科)
今月22日,高知市御畳瀬の大手操でフエダイ科のハナフエダイが1個体採集されました.ハナフエダイは高知県では非常に珍しく,本標本は1992年に御畳瀬で採集された1個体(BSKU
80661:所在不明)以来,実に16年ぶりの高知からの記録となります.本種は水深30〜350mの岩礁に生息し,西部太平洋の広範な海域とインド洋のモーリシャス諸島周辺に分布します(Allen,
1985;Anderson and Allen, 2001).日本周辺は本種の分布の北限となっており,琉球列島と伊豆諸島を中心に南日本の太平洋側から報告があります(Shimada,
2002).
ハナフエダイの特徴は,なんといってもその美しい体色です.体は全体的に桃色で,背側は黄色を呈し,背鰭基底には赤紫色の斑紋が3つあります.また,体側には青い小斑が不規則に並びます.背鰭と尾鰭は黄色で,腹鰭,胸鰭,臀鰭は薄桃色を帯び,胸鰭以外の鰭は白く縁取られます.桃色,黄色,そして青色が織りなす複雑な模様は,フエダイ科のなかでも特徴的であり,生時の体色が残っていれば種の同定は非常に簡単です.その他の形態学的特徴としては,側線鱗数が58〜66,第1鰓弓下枝の鰓耙数が8〜14(総鰓耙数が17〜21),標準体長が体高の2.8〜3.1倍などが挙げられ,これらの形質の組み合わせでも同属の他種から区別できます(Allen,
1985;Anderson and Allen, 2001).
高知では珍しいハナフエダイも,沖縄では市場に出回るほど漁獲され,地域の水産資源として重要な位置を占めています(小菅, 2004).本種は沖縄ではフカヤービタロー(あるいは単にビタロー)と呼ばれ,おもに一本釣りで漁獲されます.私は食べたことがありませんが,フエダイの仲間ですからさぞかし美味しいことでしょう.蒲原(1955)によれば,「相当に美味である」そうです.また,阿部(1963)も「肉量も多く,相当美味の魚である」と絶賛しています.一度は食べてみたい魚です.
参考文献
阿部宗明.
1963. 原色魚類検索図鑑. 北隆館, 東京. i~v+1~358 pp.
Allen, G. R.
1985. FAO species catalogue. Vol. 6. Snappers
of the world. An annotated and illustrated catalogue of lutjanid
species known to date. FAO Fisheries Synopsis 125(6): i~vi+1~208
pp., pls. I~XXVII.
Anderson, W. D., Jr. and G. R. Allen. 2001. Lutjanidae. Pages2840~2918 in K. E. Carpentar
and H. Niem. Species identification guide for fisheries purposes.
The living marine resources of the western central Pacific. Bony
fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). Food and Agriculture
Organization of the United Nations, Rome.
蒲原稔治. 1955. 原色日本魚類図鑑.
保育社, 東京. i_xi+1_135 pp.
小菅文治. 2004. 沖縄県の底魚一本釣漁業におけるハナフエダイの重要性.
農林統計調査, 54(12): 36~39.
Shimada, K. 2002. Lutjanidae. Pages
819~832 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial
keys to the species (English edn.). Tokai University Press, Tokyo.
写真標本データ
BSKU 94182, 195
mm SL, 2008年2月22日, 高知市御畳瀬大手操(盛漁丸),安芸沖, 採集・写真撮影:中山直英
(中山直英)