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2010年10月

カエルアンコウモドキ Antennatus tuberosus (Cuvier, 1817)(アンコウ目カエルアンコウ科)

 本研究室の毎年7月の恒例行事となっている宿毛市沖ノ島の調査では,これまでに高知県初記録種のシマウミヘビや未記載種であるホタテツノハゼ,またダイバーに人気のあるチンアナゴなど多くの南方系魚類が採集されています.2008年の調査では,高知県初記録のカエルアンコウ科カエルアンコウモドキが採集されました.

 カエルアンコウモドキはインド-太平洋域から広く知られていますが,国内では,伊豆半島大瀬崎および奄美大島,伊江島,宮古諸島,石垣島でのみで記録されている珍しい種です(瀬能, 1993).本種は水深10m以浅のサンゴ礁域に生息しますが,水深73mからの記録もあります(Pietsch & Grobecker,1987).

 今回採集した写真の標本は,姫島の水深5mの岩礁域に発達した造礁サンゴ群落で採集しました.魚を探すためにサンゴ類の隙間を見ていたところ,サンゴの上に丸っこいものが乗っていることに気づき,じっと観察した後カエルアンコウ科の種だと分かりました.採集はエビタモを被せるだけだったのですが,見た目に似合わずかなり暴れました.

 本種の特徴は,尾鰭軟条数が 9,吻上棘の長さは背鰭第 2 棘の1.5〜2.0倍で先端は尖り,擬餌状体がない,臀鰭の後端が尾柄部と鰭膜で連続するなどの点で同属の他種から区別できます(瀬能, 1993).しかし,本種が日本初記録として紹介された際には,体表の小棘の先端が 2 叉せずに丸く膨らみ,棘というよりは突起状であること,尾鰭は上下両端の鰭条が不分枝であることの 2 点が原記載と一致せず,今後検討を要するとされました(瀬能ほか,1994).本標本も尾鰭の上下両端の鰭条が不分枝であり,瀬能ほか(1994)の記載に一致します.日本産のカエルアンコウモドキは,今後分類学的に検討を行う必要があるでしょう.

参考文献

Pietsch, T. W. & D. B. Grobecker. 1987. Frogfishes of the world: Systematics, zoogeography, and behavioral ecology. Stanford Univ. Press, Stanford, California, xxii+420 pp., 56 pls

瀬能 宏.1993.イザリウオ科.中坊徹次編.日本産魚類検索:全種同定.東海大学出版会,東京,pp. 388-391,1279-1280.

瀬能 宏・林 公義・横山 貞夫.1994.奄美大島で採集された日本初記録のイザリウオモドキ(新称).I.O.P DIVING NEWS 伊豆海洋公園通信, 5(12): 2-3.


標本写真データ

NSMT-P90805,39 mm SL,2008年7月23日,高知県宿毛市姫島,水深 5 m,採集者:山村将士,写真撮影:遠藤広光

(山村将士)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University