今月の魚リストへ戻る


2011年8月の魚

ズグロダテハゼ Amblyeleotris melanocephala Aonuma, Iwata et Yoshino, 2000 (スズキ目ハゼ亜目ハゼ科)

 ダテハゼ属はインド−西太平洋から約33種が知られ,日本には13種ほどが分布するとされています(鈴木ほか,2006).ダテハゼ属魚類は岩礁やサンゴ礁域の砂底に生息し,テッポウエビ類と共生することがよく知られています.巣穴の近くで雌雄がかわいらしく並んでいる姿が見られるため,ダイバーにも人気の高いグループの1つです.しかし,テッポウエビ類と共生するハゼ類は,いずれも警戒心が強く,危険を察知するとすぐに巣穴に入ってしまいます.高知県では,平田ほか(1996)が柏島から本属7 種を報告しており,本研究室の最近の調査も加えると9種の分布が確認されています.本属は未記載種や初記録種が含まれ,現在でも分類学的研究が進められています.最近では,2007年にモリシタダテハゼが新種記載されています(Senou and Aonuma, 2007).

 ズグロダテハゼは,2000年に高知県と沖縄県から得られた標本に基づいて記載されました(Aonuma et al., 2000).ホロタイプは高知県最南西部に位置する沖の島の久保浦の水深28 m から採集されています.2010年にはホロタイプの採集場所とほぼ同じ,久保浦の水深30mから2個体が採集されました.そのうちの1個体が今回の標本写真です.本種は水深30〜50m付近のやや深場に生息し,高知県南西部以南では普通にみられるようです.頭は吻から鰓蓋にかけて黒色を帯びて,体には4本の黄褐色黄帯があることが特徴です.日本産の本属の中で,このように頭が黒くなるのは本種のみです.また,本属の腹鰭は吸盤状ですが,本種ではU字状の切れ込みがあります.

 本種の和名は見た目どおりの「ズグロ」で,学名のうち“melanocephala”という種小名もまたギリシャ語で頭が黒いという意味です.水中では胸鰭基底に黄色斑点があり,背鰭の朱色の縁取りも鮮やかで,他のダテハゼ類と同様にかわいらしい姿をしています.しかし,標本にするととても貫禄のある顔になります.

参考文献

Aonuma, Y., A. Iwata and T. Yoshino. 2000. A new species of the genus Amblyeleotris (Pisces: Gobiidae) from Japan. Ichthyol. Res., 47(2): 113–117.

平田智法・山川 武・岩田明久・真鍋三郎・平松 亘・大西信弘.1996.高知県柏島の魚類相.行動と生態に関する記述を中心として.Bull. Mar. Sci. Fish., Kochi Univ., 16: 1-177.

Senou, H. and Y. Aonuma, 2007. A new shrimp goby of the genus Amblyeleotris (Perciformes: Gobiidae) from the Ogasawara Islands, Japan. Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. A, Suppl. 1: 101-107.

鈴木寿之・渋川浩一・矢野維幾(瀬能 宏,監修).2004.決定版 日本のハゼ.536pp.

写真標本データ
BSKU 103945, 79 mm SL,2010年7月21日,高知県宿毛市沖の島久保浦,水深30m,採集:坪井美由紀,写真撮影:遠藤広光 白バックの写真

(片山英里)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University