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2012年5月の魚



カツオ Katsuwonus pelamis (Linnaeus, 1758)(スズキ目サバ科)

 カツオはスズキ目サバ科に分類される大型の魚類で,1種のみでカツオ属を構成し,最大で108 cm,体重34.5 kgまで成長します(Collett and Nauen, 1983).全世界の熱帯から温帯域にかけて広く分布し,外洋を群れで回遊します.本種は高知県の県魚で,高知といえばカツオを連想される方も多いでしょう.本種は他のサバ科魚類とは,体の後半が無鱗であること,尾柄に3対のキールがあること,側線が1本であること,歯が円錐歯であること,舌の上に1対の軟骨性の隆起があること,第1背鰭と第2背鰭が隣接することなどで区別されます(Collett and Nauen, 1983, Nakabo, 2002).なお,本種の特徴づける体側から腹部にかけての暗色縦帯は,生きている時は不明瞭で,死後に顕著に現れるようです(中村, 1984).

『目には青葉 山時鳥(ほととぎす) 初松魚(はつがつお)』

 江戸時代の俳人,山口素堂が詠んだように,回遊魚であるカツオは晩春から初夏にかけ日本周辺にやってきます.太平洋の赤道付近で産まれたカツオは数千から数万匹の群れをなし,餌を食べながら黒潮に乗って北上します.このとき日本近海で漁獲されるものが初鰹(上り鰹)です.この群れは東北沖あたりまで北上し,餌を食べてまるまる太ると,水温の低下とともに今度は南下を始めます.日本から赤道付近に南下する戻り鰹(下り鰹)は,身に脂がのっており,高知ではトロガツオという名称で売られています.

 カツオは高知県を代表する魚であるにもかかわらず,私たちの研究室には標本が十分に蓄積されていません.あまりに身近すぎて,見落とされてきたのでしょうか.新鮮なカツオはとても美味しいので,標本にせず食べてしまったのかもしれません.以前カツオを標本にできる(しようと思えばできる)機会がありましたが,捌いて食べてしまいました.今回紹介した標本は,近所のおばさんの旦那さんが休日に釣ったものを頂きました.食べて美味しい普通種ほど標本が少ないのかもしれません.取り残しには注意が必要ですね.

参考文献
Collett, B. B. and C. E. Nauen. 1983. FAO species catalogue, vol. 2. Scombrids of the world. An annotated and illustrated catalogue of tunas, mackerels, bonitos, and related species known to date. FAO, Rome. 1–137 pp.

Nakabo, T. 2002. Scombridae. Pages 1346–1351, 1626 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species (English edtion). Tokai University Press, Tokyo.

中村 泉.1984.サバ科.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).pp. 216–218.日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.

写真標本:BSKU 106846,ca. 45 cm SL,土佐湾,釣り,2012年5月1日,写真撮影:中山直英.

(中山直英)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University