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2017年11月の魚

ヨロイザメ Dalatias licha (Bonnaterre, 1788) (ツノザメ目ヨロイザメ科)

 ヨロイザメ科(Dalatiidae)は7属9種を含み,三大洋の熱帯から温帯域の大陸棚縁辺から斜面にかけての深海域に広く生息しています.日本周辺にはヨロイザメ属Dalatias のヨロイザメ,ダルマザメ属 Isistius のコヒレダルマザメ I. plutodus とダルマザメ I. brasiliensis,そしてツラナガコビトザメ属 Squaliolus のツラナガコビトザメ S. aliae とオオメコビトザメ S. laticaudus の3属5種が分布しています(波戸岡ほか,2013).ヨロイザメの特徴は,体が一様に黒褐色,下顎歯が上顎歯より大きく,第1背鰭が体の中央にあり,第1背鰭前縁に棘がない,体サイズが日本産の同科他種と比べて非常に大きい(ヨロイザメでは全長1.6m,他種では全長20cmから50cm)などです(波戸岡ほか,2013; 池田・中坊,2015). また,本科魚類では最古の化石種が白亜紀後期から,ヨロイザメ属では暁新世初期から知られています(Nelson et al., 2016).日本では本属の歯の化石が産出しています(上野・松島,1975; 鈴木,2005).

 ヨロイザメ科の多くの種では,腹面に黒い点状に見える発光器をもちます(波戸岡ほか, 2013; Nelson et al., 2016). これらの発光器は,サメ類では本科とカラスザメ科のみに見られ,中深層から表層への鉛直移動を行う時に,その発光は自分の影を消すためのカウンターイルミネーションとして働きます(Claes et al., 2014). 日本産の本科では,大型になるヨロイザメだけが発光器をもっていません(Garrick and Springer, 1964; Compagno, 1984; Last and Stevens, 2009).

 ヨロイザメの分布域は非常に広く, 日本周辺では茨城県から土佐湾の太平洋沖,長崎県五島西方沖の東シナ海大陸棚縁辺から斜面域,沖縄舟状海盆,世界では太平洋,インド洋,大西洋の熱帯・温帯域の水深200から1800m (稀に37m)に生息する深海性魚類です(波戸岡ほか,2013).深海に生息するヨロイザメは肉食性の大型捕食者で,胃からはニギス科,ワニトカゲギス目,ハダカエソ科,アオメエソ科,ハダカイワシ科,タラ目,カサゴ類など深海性の硬骨魚類,エイ類,トラザメ科やツノザメ科などの軟骨魚類,頭足類やエビ類などが見つかっています(Compagno, 1984).また,本種は深海に生息し,単独で行動するか群れても数個体であり,まとめて漁獲されることが少ないようです(Last and Stevens, 2009).そのため,高知市御畳瀬魚市場での水揚げも稀です.一般的に本種を目にする機会はそれほどありませんが,最近では,東京湾でヨロイザメを捕獲した映像がテレビで放送されたり,沼津港深海水族館で一時期展示されたり,珍しくマスメディアに何度か取り上げられていました.

参考文献

Claes, J. M., D-E. Nilsson, N. Straube, S. O. Collin abd J. Mallefet. 2014. Iso-luminance counterillumination drove bioluminescent shark radiation. Scientific Reports, 4: 4328 DOI: 10.1038/srep04328
Compagno, L. J. V. 1984. FAO species catalogue. Vol. 4. Sharks of the world. An annotated and illustrated catalogue of shark species known to date. Part 1. Hexanchiformes to Lamniformes. FAO Fish. Synop., (125) Vol. 4, Pt. 1. viii + 249.
Garrick, J. A. F. and S. Springer. 1964. Isistius plutodus, a new squaloid shark from the Gulf of Mexico. Copeia, 1964 (4): 678-682.
波戸岡清峰・柳下直己・山口敦子. 2013. ヨロイザメ科. 中坊徹次(編), pp. 189-190, 1766. 日本産魚類検索 全種の同定. 第三版. 東海大学出版会, 秦野.
池田博美・中坊徹次. 2015. 南日本太平洋沿岸の魚類. 東海大学出版部, 奏野. xxii+597 pp.
Last, P. R. and J. D. Stevens. 2009. Sharks and rays of Australia. 2nd ed. CSIRO Publishing, Hobert. vi+644pp.
Nelson, J.S., T.C. Grande and M.V.H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley & Sons, Hoboken. xli+707pp.
鈴木秀史.2005.長野県真田町本原の中部中新統伊勢山層から産出したヨロイザメの歯化石について.地球科学,59 (6): 383-388.上野輝弥・松島義章.1975.神奈川県北部の中津累層 (鮮新統上部) 産出 ホホジロザメ・ヨロイザメなどの化石について.神奈川県立博物館研究報告 自然科学,8: 41-55.

写真標本:BSKU 118428, 1390 mm TL, 2015年10月15日, 高知市御畳瀬魚市場, 幸成丸(大手繰り網), 土佐湾中央部(仁淀川河口沖), 水深 230m.

(上阪健太)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University