今月の魚リストへ戻る


2018年6月の魚



カナド Lepidotrigla guentheri Hilgendorf, 1879(スズキ目ホウボウ科)

 スズキ目ホウボウ科(Triglidae)魚類は,世界の熱帯から温帯海域に分布し,現在知られる9属126種のうち,日本からは3属19種が記録されています(山田・柳下,2013; 柳下,2018).本科魚類は,頭部が骨質の甲で被われ,吻棘をもちます.また,胸鰭上部が大きく,下部の3軟条が遊離していることなどが特徴です.胸鰭の遊離軟条の表皮には,味蕾に類似した細胞があり,これを指のように動かすことによって,海底に潜む餌を探査します(柳下,2018).また,ホウボウ科魚類は鰾に付随する発音筋を使って,音を出すことができます(Nelson et al.,2016; 都木,2017).

 ホウボウ科は,Prionotinae亜科,Pterygotriglinae亜科,Triglinae亜科の3亜科に分類され,カナガシラ属(Lepidotrigla)はTriglinae亜科に含まれます(Nelson et al.,2016). カナドが属するカナガシラ属(Lepidotrigla)は,鋭いとげのある骨質板が2つある背鰭全体にあることや,体と尾にある鱗が大きいこと,側線鱗の数が通常60よりも少ないこと,後頭部に通常深い溝があるなどの特徴から,他属と識別されます(Richards, 1999).カナガシラ属は現在,77名義種が存在し,そのうち54種が有効とされています(Eschmeyer et al.,2018).日本からは,次の10種が報告されています: イゴダカホデリ L. alata (Houttuyn, 1782),トゲカナガシラ L.  japonica (Bleeker, 1854),カナガシラ L. microptera Günther, 1873,カナド L. guentheri Hilgendorf, 1879,ソコカナガシラ L. abyssalis Jordan and Starks, 1904,オニカナガシラ L. kishinouyei Snyder, 1911,ヒメソコカナガシラ L. hime Matsubara and Hiyama, 1932,ヒレナガカナガシラ L. kanagashira Kamohara, 1936,ヒレホシカナガシラ L. punctipectoralis Fowler, 1938,ツラナガソコカナガシラL. longifaciata Yatou, 1981,およびボウズカナガシラ L. sp. (山田・柳下,2013).

 カナド L. guentheri はドイツの動物学者 Franz M. Hilgendorf 博士により,東京で得られた1標本に基づき1879年に記載されました.Hilgendorf 博士は日本に滞在した1873年から1876年に多くの標本を採集し,ドイツへ持ち帰っています.カナドのホロタイプは,Hilgendorf 博士が帰国後に働いたドイツのベルリン自然史博物館(ZMB)に現在も所蔵されています.種小名 guentheri は.大英自然史博物館の動物学者 Albert C. G. Günther博士 に献名したものです(中坊・平嶋,2015).本種は,背鰭第2棘が第1棘より著しく長いことや,胸鰭内側が下方の白色から青色の虫食い状の斑を含む大黒斑と中央部の黄緑色,縁辺の薄い赤褐色からなる模様などの特徴から,同属他種と識別できます(山田・柳下,2013;柳下,2018).本種は日本では青森県から九州南岸の各地沿岸,瀬戸内海,八丈島や東シナ海大陸棚域までの広い地域に分布し,水深60mから350mの貝殻混じりの砂底から貝殻・泥混じりの砂底に生息します(山田・柳下,2013;柳下,2018).

 写真個体は,2018年4月23日に高知市御畳瀬漁港の沖合底曳き網漁(大手繰り網)で採集されました.御畳瀬漁港では,本種の他にも日本でみられるホウボウ科魚類の多くを目にすることができ,本種も含め食用として,練り物などとして利用されます.本科魚類の大きな胸鰭の内側は,種によって様々な模様や色をしているので,目にする機会があれば確認して比べてみてください.

参考文献

Eschmeyer, W. N., R. Fricke and R. van der Laan. 2018. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 2 May. 2018.

中坊徹次・平嶋儀宏 2015.ホウボウ科. pp.146-147 日本産魚類全種の学名 語源と解説. 東海大学出版部,秦野.

Nelson, J.S., T.C. Grande and M.V.H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Weily and Sons, Hoboken. xli+707pp.

Richards, W. J. 1999. Trglidae. Pages 2359-2382 in K. E. Carpenter and V. H. Niem, eds. The living marine resources of the western central Pacific. Volume 4, Bony fishes Part 2 (Mugilidae to Carangidae). Food and Agriculture Organization of the United Nations, Rome.

都木靖彰.2017.7章 鰾. 矢部 衞・桑村哲生・都木靖彰(編), pp.73-79.魚類学.恒星社厚生閣, 東京

柳下直己. 2018. ホウボウ科. 中坊徹次(編),pp.220-221.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説. 小学館, 東京

山田梅芳・柳下直己.2013.ホウボウ科.中坊徹次(編),pp,720-726,1951.日本産魚類検索全種の同定.第3版.東海大学出版会,秦野.

写真標本:BSKU 123708,141.1 mm SL, 土佐湾,高知市御畳瀬漁港(大手繰り網),2018年4月23日.

(溝脇一輝)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University