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2018年12月の魚

アシロ Ophidion asiro (Jordan and Fowler, 1902)(アシロ目アシロ科)

 アシロ目アシロ科魚類 (Ophidiidae) は, 世界の熱帯から温帯の潮間帯から深海底に生息し, 世界では4亜科50属約265種が,  日本では27属約45種が知られています. 本科魚類は, 背鰭鰭条が臀鰭鰭条と同長かそれより長いことや通常肛門と臀鰭起部が胸鰭後端直下よりも後方にあることなどが特徴とされています(Nelson et al., 2016; 遠藤, 2018).
 アシロ属Ophidion Linnaeus, 1758は,体が細長い楕円形の鱗で覆われ,それらの鱗は斜めに配列して数枚ごとに互いに直角となること,背鰭起部が胸鰭後端の直上付近にあること, 長く伸びた腹鰭が眼の直下の喉部付近にあることなどから同科他属と容易に識別できます. 現在,アシロ属は世界で33名義種が存在し, そのうち27種が有効とされています. 日本からはミナミアシロ O. muraenolepis (Günther, 1880)とアシロ O. asiro (Jordan and Fowler, 1902)の2種が報告されています(中坊・甲斐, 2013).
 アシロは Otophidium asiro Jordan and Fowler, 1902として神奈川県三崎で採集されたホロタイプのみに基づいて記載され,その標本は東京帝国大学(現,東京大学)から米国スタンフォード大学のD. S. Jordan博士に寄贈されたものです (Jordan and Fowler, 1902).  現在, このホロタイプ(CAS-SU 7123)は米国カリフォルニア科学アカデミー(サンフランシスコ市)に所蔵されています(Eschmeyer et al., 2018).アシロの学名は属名が小さな蛇という意味で, 種小名はタイプ産地である神奈川県三崎での呼称を用いたそうです(中坊・平嶋,2015). 日本産のアシロは背鰭と臀鰭の鰭条数が147−158と118−126であることから,ミナミアシロ(164–167と127–133)と識別され,相模湾, 熊野灘, 土佐湾, 隠岐, 東シナ海および台湾に分布し, 水深100mから200mの砂泥底に生息しています (中坊・甲斐, 2013 ; 遠藤, 2018) .
 現在, 日本にはアシロ O. asiro とミナミアシロ O. muraenolepis が分布するとされてきました.しかし,ミナミアシロが日本で初めて報告されたRandall et al. (1997) の中で, C. R. Robins博士はO. asiroアシロがO. muraenolepisミナミアシロの新参異名の可能性があると指摘しており, 文献によってはすでに新参異名として扱われています(Robins, 1999).しかしながら, 日本の魚類検索などではどちらも有効種としており, 研究者により見解が異なります. もしかすると,日本産アシロ属は近い将来1種のみとなっているかもしれません (中坊・甲斐, 2013).
 写真標本は, 高知市御畳瀬漁港の沖合底曳き(大手繰り網)で採集されました. 御畳瀬漁港ではしばしば水揚げされていますが, まだ深海で遊泳している映像を見たことがないので,是非見てみたいものです.

引用文献

遠藤広光. 2018. アシロ科. 中坊徹次(編),pp.164-165 小学館の図鑑Z 日本魚類館精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

Eschmeyer, W. N., R. Fricke and R. van der Laan. 2018. Catalog of fishes: genera, species, reference:
http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 2 May. 2018.

Jordan, D. S. and H. W. Fowler. 1902. A review of the ophidioid fishes of Japan. Proceedings of the United States National Museum, 25 (1303): 743-766.

中坊徹次・甲斐嘉晃.2013.アシロ科.中坊徹次(編),pp. 514-524,1887-1880.日本産魚類検索全種の同定.第3版.東海大学出版会,秦野.

中坊徹次・平嶋儀宏 2015.アシロ科. pp.113-115 日本産魚類全種の学名 語源と解説. 東海大学出版部,秦野.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli+707pp.

Robins, C. R. 1999. Ophidiinae. Pages 26-44 in J. G. Nielsen, D. M. Cohen, D. F. Markle and C. R. Robins, eds. FAO Species catalogue. Volume 18. Ophidiiform fishes of the world (Order Ophidiiformes). An annotated and illustrated catalogue of pearlfishes, cusk-eels, brotulas and other ophidiiform fishes known to data. FAO Fisheries Synopsis. No. 125. FAO, Rome.

写真標本:BSKU 124876, 176 mm SL, 土佐湾,高知市御畳瀬漁港(大手繰り網),2018年10月10日.

(溝脇一輝)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University