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2019年1月の魚

ブリ Seriola quinqueradiata Temminck and Schlegel, 1845(スズキ目アジ科ブリ属)

 アジ科(Carangidae)は世界では31属148種が,日本では24属61種が報告され,三大洋の暖海域に分布します(工藤,2018).本科魚類は体が側偏し,臀鰭に2本の遊離棘条をもつこと,尾柄が短く尾鰭が二叉することなどが特徴です(木村,1997;Nelson et al., 2016;工藤,2018).アジ科は,コバンアジ亜科(Trachinotinae),イケカツオ亜科(Scomberoidinae),ブリモドキ亜科(Naucratinae),そしてアジ亜科(Caranginae)の4亜科に分類され,ブリはブリモドキ亜科のブリ属(Seriola)に含まれます(Nelson et al., 2016).ブリ属(Seriola)は,Cuvier (1816) によってCaranx dumerili Risso 1810をタイプ種として設立されました.属名のSeriolaは,地中海に分布する本属のタイプ種(S. dumerili)のイタリア語での呼称に因みます(中坊・平嶋,2015).本属魚類は三大洋に分布し,側線に稜鱗がなく,成魚に暗色の横帯や斜帯がないことが特徴です(中坊,2018).本属は11有効種(Eschmeyer et al., 2018)を含み,日本近海にはブリS. quinqueradiata Temminck and Schlegel, 1845,ヒラマサS. lalandi Valenciennes, 1833,カンパチS. dumerili (Risso, 1810),およびヒレナガカンパチS. rivoliana Valenciennes, 1833の4種が分布します(瀬能,2013;中坊,2018).ブリとヒラマサはカンパチやヒレナガカンパチに比べて遊泳型の体型をもち,より沖合に生息しています(2018).

 ブリは長崎県の出島に滞在したP. F. vonシーボルト(1796–1866)の収集標本による「Fauna Japonica(日本動物誌)」(1833–1850)の中で,Temminck and Schlegel (1845) により長崎県産の6標本に基づき記載されました.この時,ホロタイプは指定されておらず,Boeseman (1947) によって,シンタイプスシリーズのうちRMNH D2176がレクトタイプに選定されました.レクトタイプとパラレクトタイプの4標本はオランダのナチュラリス多様性センターに,レクトタイプ1標本はドイツのベルリン自然史博物館に所蔵されています(Eschmeyer et al., 2018).本種は小笠原諸島,北海道全沿岸から九州南岸までの日本海,東シナ海,太平洋沿岸,屋久島,瀬戸内海,朝鮮半島の南岸と東岸,済州島,千島列島南部の太平洋沿岸,稀に沖縄,そしてピーター大帝湾から報告されています(瀬能,2013).日本産ブリ属4種のうち,ブリはヒラマサと最も類似し,ヒラマサに比べて体が少し厚く,上顎後端上部が角張っていることから識別できます.また,生鮮時には,ヒラマサの方が体側中央の黄色帯がより顕著であることが特徴です(瀬能,2013;中坊,2018).本種の回遊範囲は年齢が高くなるほど広くなり,魚類やイカ類を食べて成長します(中坊,2018).ブリは出世魚で体長によって呼び名が変わります.東京都では体長15p未満をワカシ,40p程度をイナダ,60p程度をワラサ,90p以上をブリと呼ぶのに対して,兵庫県では9p程度をツバス,30–45pをメジロ,60p程度をニネンゴ,90p程度をサンネンゴと呼びます.また,高知県では9p程度をモジャコ,45–90pをハマチ,60p程度をブリ,75p以上になるとオオイナと呼ぶそうです(Okada, 1955).

 写真標本は,2014年5月24日に研究室OBの三澤遼さんが,高知県土佐市宇佐町の一文字沖堤防で釣り上げた個体です.高知県では,室戸市や土佐清水市の沿岸を中心に,大敷網と呼ばれる大型定置網が約50カ所設置されています(高知県,2014).特に室戸市では大敷網によるブリ漁が盛んで,佐喜浜漁港,椎名漁港,三津漁港,高岡漁港で水揚げされています.ブリが産卵を控える晩冬から春にかけての3〜5月は定置網の盛漁期で,脂ののったブリが大量に漁獲されます.そこで漁獲されたものの中でも,10kgを超えるものを“定置獲れたて室戸ブリ”と呼んでいるそうです(全国漁業協同組合連合会).脂ののったブリは刺身だけでなく,しゃぶしゃぶやブリ大根,あら炊きなど,様々な料理で美味しく頂けます.機会があれば,ぜひ室戸のブリを食べてみてください.

写真標本:BSKU 114366, 171.6 mm SL 2014年5月24日, 高知県土佐市宇佐町一文字沖堤防,釣り,採集・写真撮影:三澤遼.

参考文献

Boeseman, M. 1947. Revision of the fishes collected by Burger and Von Siebold in Japan. Zool. Meded. 28: i–vii + 1–242, pls.1–5.

Cuvier, G. 1816. Le Règne Animal distribué d'après son organisation pour servir de base à l'histoire naturelle des animaux et d'introduction à l'anatomie comparée. Les reptiles, les poissons, les mollusques et les annélides. Edition 1. Volume 2, Paris. xviii + 532 pp

Eschmeyer, W. N., R. Fricke and R. van der Laan. 2018. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 7 Dec. 2018.

高知県.2014.大型定置網漁:http://www.pref.kochi.lg.jp/soshiki/040401/teitiami.html(参照2018-12-8).

工藤孝浩.2018.アジ科. 中坊徹次(編),pp. 258–259.小学館の図鑑Z 日本魚類館精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

木村清志.1997.アジ科.岡村収・尼岡邦夫(編),pp. 312–327. 山渓カラ―名鑑 日本の海水魚. 第三版.  山と渓谷社, 東京.

中坊徹次. 2018.ブリ属. 中坊徹次(編),pp. 266–267.小学館の図鑑Z 日本魚類館精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

中坊徹次・平嶋儀宏. 2015. 日本産魚類全種の学名 語源と解説.東海大学出版部, 秦野.i–xv + 372 pp.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli + 707pp.

Okada Y. 1955. Fishes of Japan. Maruzen Co., Ltd., Tokyo. 1–434 + 1–28 pp.

瀬能宏. 2013. アジ科. 中坊徹次 (編),pp. 878–899, 1991–1995.日本産魚類検索全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野.

Temminck, C.J. and H. Schlegel. 1845. P.F. de Siebold's Fauna Japonica. Pisces. Parts 7–9: 113-172, pls. 1–196 + A.

全国漁業協同組合連合会.定置獲れたて室戸ブリ: http://www.pride-fish.jp/JPF/pref/detail.php?pk=1445923867(参照2018-12-8).

*椎名漁港で2017年4月20日に撮影したブリの写真

写真標本:BSKU 114366, 171.6 mm SL 2014年5月24日, 高知県土佐市宇佐町一文字沖堤防,釣り,採集・写真撮影:三澤遼.

(面平恵理子)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University