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2019年3月の魚


カマツカPseudogobio esocinus (Temminck and Schlegel, 1846) (コイ目コイ科カマツカ属)

 コイ科 Cyprinidae は 世界では367属3006有効種が,日本では 25属64種・亜種が報告され,ユーラシア,アフリカおよび北米大陸の淡水域に分布します.本科魚類は 背鰭 が1基で,口 が 突出可能で 顎に歯がないこと,咽頭歯 が1–3列に並ぶこと,その列中の歯数 が8をこえないことなどが特徴です(Nelson et al., 2016; 馬渕,2018).
 カマツカ属(Pseudogobio)は Bleeker (1860) によって,カマツカGobio esocinus Temminck and Schlegel, 1846をタイプ種として設立されました.本属魚類は,日本,朝鮮半島,中国およびベトナムに分布し,現在31名義種中 6種が有効とされています (Eschmeyer et al., 2019).そのうち,日本からはカマツカPseudogobio esocinus (Temminck and Schlegel, 1846) の1種のみが知られています(細谷,2013).本種は 体 が細長く,吻 が長いこと,口 が下方に突出すること,1対の口髭をもつこと,口唇に乳頭突起があること,胸鰭と腹鰭 が水平に位置する ことなどが特徴です(細谷,1989; 川瀬,2018).
 本種は Temminck and Schlegel (1846) によって,11標本に基づき記載されました(原記載の図).この時 ホロタイプの指定は行われず,後にBoeseman (1947) によって,これらシンタイプスシリーズのうちRMNH 2478がレクトタイプに 指定されました.現在,レクトタイプとパラレクトタイプの10標本はオランダのライデンにあるナチュラリス多様性センターに,パラレクトタイプの1標本はドイツのベルリン自然史博物館にそれぞれ所蔵されています(Eschmeyer et al., 2019) .
 Tominaga et al. (2016) は カマツカが分布する全地域から約1200個体を採集し,ミトコンドリアDNAのcytochrome b遺伝子の部分塩基配列を解析して,日本に分布するカマツカの系統類縁関係を明らかにし ま した.その結果,日本には遺伝的に大きく異なる3系統群 が存在し,本州中部の山岳地帯を隔てた西日本にGroup A とGroup Bが,東日本にはGroup Cが分布することが 判明しました.また,富永 ・川瀬(2015) は 外部形態の比較により,3系統群間には吻長,肛門−臀鰭起点間長,口唇長,腹鰭長,そして斑紋など の差異 で識別できること を 示しました.さらに,富永ほか(2015)は文献調査 とPseudogobio esocinus のタイプ標本調査から,Group AがPseudogobio esocinus の特徴に一致し,Group BおよびGroup C がそれぞれ未記載種であると報告 しています .
 写真の標本は,2019年2月7日に,高知市宗安寺キャンプ場近くの鏡川の砂底でじっとしていたところを玉網で採集しました.Tominaga et al. (2016) は 高知県から採集された 32個体も解析に含め ており,すべ てGroup Aであることが報告されています.したがって,写真の標本はGroup Aに属し,正真正銘のカマツカPseudogobio esocinus であると思われます.

参考文献
 
Bleeker, P. 1860. Conspectus systematis Cyprinorum. Natuurkundig Tijdschrift voor Nederlandsch Indië , 20: 421–441.

Boeseman, M. 1947. Revision of the fishes collected by Burger and Von Siebold in Japan. Zoologische Mededelingen (Leiden) , 28: i–vii+1–242, pls.1–5.

Eschmeyer, W. N., R. Fricke and R. van der Laan. 2019. Catalog of fishes: genera, species, reference: http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/fishcatmain.asp. Electronic version accessed 20 Jan. 2019.

細谷和海.1989.コイ科.川那部浩哉・水野信彦(編),pp. 294–315. 山渓カラ―名鑑 日本の淡水魚. 山と渓谷社, 東京.

細谷和海.2013. コイ科. 中坊徹次 (編),pp. 308–327, 1813–1819.日本産魚類検索 全種の同定 第三版. 東海大学出版会, 秦野.

川瀬成吾.2018.カマツカ. 中坊徹次(編),p. 104.小学館の図鑑 Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

馬渕浩司.2018.コイ科. 中坊徹次(編),pp. 88–89.小学館の図鑑 Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

Nelson, J. S., T. C. Grande and M. V. H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xil+707 pp.

Temminck, C. J. and H. Schlegel. 1846. Pisces (Part 5), P. F. Von Siebold (ed.), pp. 173–269. Fauna Japonica. Leiden . 323 pp., pls. 1–144. *原記載の図

富永浩史・川瀬成吾.2015.日本産カマツカ属の未記載種.p. 23. 2015年度日本魚類学会年会講演要旨,Advance Abstracts for the 48th Annual Meeting , 2015.日本魚類学会,東京.

Tominaga K., J. Nakajima and K. Watanabe. 2016. Cryptic divergence and phylogeography of the pike gudgeon Pseudogobio esocinus (Teleostei: Cyprinidae): a comprehensive case of freshwater phylogeography in Japan. Ichthyological Res each, 63: 79–93.

写真標本:BSKU 125644,158.5 mm SL,2019年2月7日,鏡川,採集・撮影:永江栞奈.

(永江栞奈)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University