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2007年2月1日「後援会だより」第25号 編集/発行 高知大学理学部後援会

「団塊の世代の戯言」

自然環境科学科長 町田吉彦

 インターネットのフリー百科事典Wikipediaは「団塊の世代」にすこぶる手厳しい。低俗な表現でボロクソ。褒め言葉はほとんどなく、たまにあっても刺々しい。1947年生まれの私はこの一員である。1965年に高知大学に入学した私はその後、何を血迷ったか大学院に進学した。学園紛争の嵐が過ぎ去った1970年当時、醒めた学生は「立てばパチンコ、座れば麻雀、歩く姿はボーリング」と世間様から揶揄された。身に覚えがあるため、これには大声で抗議しない。
 私は幾度となく「日本は資源が乏しい」を小学校で耳にした(あくまで私の個人体験なので、誤解なきよう)。従軍経験をお持ちの先生が多数おられ、特攻隊に所属した先生もおられた。「資源が乏しい」は戦前、日本が諸外国への侵略の口実にしたのと同じセリフである。そのためか大部分の男子生徒の憧れはエンジニアであり、彼らは企業戦士となった。しかし、農家ではなかったが、家の周囲がぐるり水田と畑であった私には、「資源が乏しい」がどうしても納得できなかった。
 だが、高校生になり事態が一変した。ヘリコプターによる水田への農薬の大量散布である。わずか3年ほどで多くの動物が姿を消した。家の前の溝にいた泥鰌も藻屑蟹(高知では“つがに”)も、蝗も鮒もいなくなった。我が家に限らず、これらは時として蛋白源であった。農家は農薬中毒に悩まされ、死に至った人も多数いた。農薬は農家に豊かな暮らしをもたらすはずであったが、実際はそうではなかった。
 2005年と2006年に、高知市内のある団体からの依頼で市の中心部にある新堀川の魚類の調査を行った。新堀川は1625年に町民によって造られた由緒ある運河である。江ノ口川と浦戸湾を結ぶこの水路はその昔、公害によりドブ川だった。調査の目的は、道路拡幅工事で川面が覆われるため、魚類の生息状況を把握することである。工事に関与した委員会の提言には、「ヘドロ化した河床土」とある。しかし、河床はコアマモで覆われており、アカメを始めとする貴重な魚類の生息が確認された。1971年の「高知パルプ生コン事件」で汚染源が消滅し、河床はヘドロでも何でもなかったのである。
 疑うことは自然科学のみならず、社会生活においても最も基本となる姿勢ではなかろうか。Wikipediaによれば、団塊の世代の特徴のひとつに「押しつけがましい」とある。そこで、この一員たる私は世間を欺くため、「自然や社会をどうか自分の眼で確かめてください」と日々、後輩たる学生諸君にお願いしている次第である。

(2007年2月1日発行 理学部後援会だより 第25号に掲載)