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2012年12月9日〜
「横浪半島の昆虫」展(谷地森秀二 四国自然史科学研究センター・高知大学非常勤講師)


横浪半島の昆虫相

中山紘一(高知昆虫研究会)

「横浪半島生物総合学術調査」の一環として,昆虫相を把握するために調査を行ったので報告する.
調査は2004年5月~2007年12月にかけて行った.おもな現地調査地点は,土佐市井尻宇津賀,竜蟹ヶ池,宇都賀山,奥の院,堂ノ浦周辺,須崎市大鹿,今川内,福良,帷子崎,池の浦こどもの森,須ノ浦,鳴無,浦の内東分周辺およびその他横浪スカイライン沿いで行い,高知昆虫研究会有志数名が随時半島を訪れ,昼間採集,灯火採集,土壌ソーティング,ベイト・トラップなどの方法を用いた.また,過去の文献,標本による調査もあわせて行った.標本の調査は,調査に参加した各人の過去の標本,個人で記録などされているものをできるだけ探し,データのはっきりしているものだけを確認データとしてリストに掲載した.
 現地調査によって1266種の生息が確認された.文献および標本調査の結果を含めると186科1599種の昆虫が確認された.一番種数が多いのはチョウ目,次いでコウチュウ目でこの2目だけで全体の75%を越える割合を占めていた.
  横浪半島の林は二次林ながら,シイ類,カシ類,タブノキなどが優占する常緑広葉樹林でヒメユズリハ,ヤブニッケイ,カラスザンショウなどが混じる.横浪半島の昆虫相は気候帯や植生と良く一致したもので,海浜性の要素も含んでいる.ほとんどの昆虫は高知県下で広く見られる暖温帯性および海浜性の昆虫であるが,約1600種の種数は半島であることを考えればかなりの種数である.昔は高知県では採集例の少なかった南方系の種が高知県下で広く見られるようになり,横浪半島では常時暖流の影響を受けて温暖な気候であることも関係して,キモンクチバ,ニジオビベニアツバ,サンカククチバなどをはじめ南方系の蛾類が多く見つかっている.また,スゲドクガやリュウキュウフトスジエダシャクは四国では今回の調査で初めて見つかったものである.コウチュウでもオキナワコアオハナムグリのような南方系のもの,今回の調査では見つからなかったがキベリフトカミキリモドキのように産地が局所的なものもある.半島の大部分はスギ,ヒノキなどの人工林が少ないこと,土佐市竜の蟹ヶ池,須崎市浦の内の鳴無周辺の湿地など特異な環境も存在することなどが昆虫たちに好適な環境を与えていると考えられる.中でも土佐市竜の蟹ヶ池周辺は県下でも有名なトンボの観察地として知られるが,トンボ以外の昆虫も多数生息している.横浪半島の植生の大部分を占めている広葉樹林は放置された部分が多く,林縁では草本類や蔓植物がからみ,林内は暗く,昆虫類は少ない.今回の調査でも蟹ヶ池周辺,宇都賀,鳴無など開けた環境がある場所で多くの昆虫が確認された.特に蟹ヶ池,鳴無に見られる湿地は今では貴重な環境である. 
 ある程度人手が加わって自然と人間とが共存している場所には昆虫類をはじめ小動物,鳥類も多い.今後,高知県のほぼ中央部に残されている貴重な自然観察の場である横浪半島全体の保全とともに,ある程度人手を加えて開放的な場所やビオトープを形成するとか,自然観察路を整備するなどの利用も考えられる.