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温暖な気候での飼育に適し、肉質の評価も高い「土佐あかうし」。その種の保存と増頭、また畜産業の担い手の育成に産官学一体となって取り組むプロジェクトについて、お話を聞きました。
[専門領域]
家畜繁殖学、発生工学[研究テーマ]
●土佐あかうし(褐毛和種高知系)の 土佐あかうしは、高知県内で品種改良されてきた褐色の和牛。黒毛和種と比べて筋肉内に脂肪が入る「さし」が少なく赤身とのバランスが良い上、うまみを感じるアミノ酸が豊富なのがその特徴です。近年のヘルシー志向を追い風に人気は高まっていますが、市場価格や等級は黒毛和種より低く、そのため黒毛和種に転向したり廃業したりする農家が相次ぎ、頭数が激減しました。
現在、高知県内に約1,700頭、うち約90頭が物部キャンパス内で飼育されていますが、これは絶滅が危惧される頭数。そこで、土佐あかうしの優秀な系統を増やし、かつ次世代の担い手を育成しようと、高知大学と高知県、そして地域の畜産農家がタッグを組んで共同事業に取り組んでいます。
事業の一つ目の柱は、種の保存です。改良を重ねる中で選ばれたエリート雄牛が種牛となり、県の畜産試験場で定期的に精液を採取、精液は液体窒素で凍結保存されます。通常だと各牧場でその精子を、選定された優秀な雌牛に注入し人工授精を行えばいいのですが、土佐あかうしの場合、それだけではもう維持できないところまで数が減っています。
そこで、昨年度から高知県は、乳牛に土佐あかうしの受精卵を移植して代理出産させる取り組みをスタート。当研究室もそこに受精卵を提供しています。現在、卵子の凍結保存技術はまだ確立されていませんが、受精卵はそれが可能です。受精卵を液体窒素で保存し、それをかえして利用するのが今とれる唯一の増頭手段なのです。
ただ、体外受精における受精卵の作出には、まだまだ多くの課題があります。当研究室ではそれらの解決を目指し、受精率の向上に関わる新技術の開発や、受精卵の評価、精子のフリーズドライなど、様々な角度から研究に取り組んでいます。さらに、出荷された雌牛など血統情報や枝肉成績などが分かっている個体から採取した卵を、種牛の精液と体外受精させて増頭する方法などについても、近い将来の実用化を見据え実験を重ねています。
一方、肉質の改良によるさらなる高付加価値化を目指し、県産の柚子を試料に混ぜて育てる"柚子あかうし"の取り組みにも着手しています。出荷前の1ヶ月間、柚子を食べさせた牛の肉は、不飽和脂肪酸の割合が増すことが私たちの実験の結果、明らかになりました。不飽和脂肪酸は、より低い温度で溶けるため食べた時の口溶けがよくなるだけでなく、コレステロール抑制などの効果もあります。赤身と脂肪のバランスのとれたうまみと健康増進効果をうまく活かして、土佐あかうしのブランド力強化につなげられればと考えています。
霜降りの多い黒毛和種一辺倒の現在の和牛市場に、土佐あかうしが新風を吹き込む――そんな大きな夢も抱いています。
増頭や肉質改良によるブランド強化は、事業のもう一つの柱である畜産農家の後継者育成に対してもよい後押しとなります。 また、本学が所有する牧場に若者の新規参入やIターンUターン希望者を一時的に受け入れ、研修の場として活用するなど、地域と協働した担い手育成のアイデアについても検討が始まっています。 先端研究の場として、また地域の大学として、土佐あかうしを科学と愛情をもって盛り上げていく。それが、私たち"あかうし研究室"の使命なのです!