高知大学 農林海洋科学部 大学院 総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

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特別企画 高知県プロジェクト「Iopが導くNext次世代型施設園芸農業」

宮内先生

 温暖で多日照という恵まれた気候を活かし園芸農業生産性日本一を誇る高知県。その高知で、施設園芸農業のさらなる飛躍的発展を目指しスタートしたのが「Next次世代型施設園芸農業」プロジェクトです。今回は、プロジェクトの一端を担う宮内樹代史先生からお話をお聞きしました。



高知県が総力を挙げて
取り組む一大プロジェクトに参画

 2013年から、全国で次世代施設園芸拠点・植物工場拠点の整備が進み、高知県にも「こうち新施設園芸システムプロジェクトチーム」が発足し、先進的な技術を導入したオランダ型高軒高のハウスが建設されました。環境制御技術を導入して栽培環境の見える化を図り、収量増と省力化、高品質化に県を挙げて取り組んできました。
 2018年からは、さらにAIやIoTなどの先端技術を融合し、もう一歩先の未来を見据えた高知県プロジェクト「"IoP(Internet of Plants)"が導く「Next次世代型施設園芸農業」への進化」への取り組みがスタートしました。すでに実現しているハウス内環境の見える化に加え、植物の生理・生育の可視化を図り、農業間の情報の一元化、収穫量・時期の予測や作業の効率化を担うIoPクラウドを構築し、施設園芸農業の飛躍的発展と施設園芸関連産業群の創出・集積を目指しているところです。
 このプロジェクトは、高知大学、高知工科大学、高知県立大学、九州大学の最先端の研究をベースに、高知県や産業団体、企業が一体となって進める産官学連携の取り組みです。それぞれに役割を持って進めており、総勢100名を超える研究者が参画するビッグプロジェクトです。

高知県IoP事業の概略図

クリックすると、別ウィンドウで拡大画像が開きます。


IoPクラウドを活用し、
石垣ハウスで省エネ化・効率化を!

 具体的に私が関わっているのは、生産システムの中の省力化・省エネルギー化課題に関する分野の試験研究です。
 その取り組みの一つが、中山間地域の棚田を利用した木質ハウスによる新たな園芸モデルの構築です。

石垣トマト

 仁淀川町で行っている取り組みで、もともとあった石垣を建物の北面とし、南側に木製のハウスを作りました。石垣が昼間の余剰熱を蓄熱するため夜間もあたたかく、冬場でも無加温でトマトの栽培ができます。


 石垣に着目したのは、棚田の石垣のようなところで露地栽培をしている、静岡県の石垣イチゴをヒントにしました。もう一つは、中国にも北面を土壁やレンガで作り、東西を区切り、南面のみをプラスチックフィルムで囲って採光していている「日光温室」という特殊な温室があります。冬場でも無加温で栽培できることから、日本でも同様のものができないかということで開発にあたった経験がありました。
 その後、仁淀川町で棚田を生かしたハウスを作れないかとの相談を受け、現地の木材を使い、地元のみなさんで製材して石垣ハウスを作りました。耕作放棄地の棚田を、地域資源を使って有効再生した一石二鳥の取り組みです。仁淀川町内に小規模ながら増えつつあり、現在十数棟が建っています。

石垣ハウス

石垣ハウス

 Next次世代型施設園芸農業に向けての課題としては、環境情報や植物情報の抽出を行っているものの、電波が届かないためインターネットや携帯電話が使えず、情報共有ができないことです。IoPクラウドを利用して点在したハウスをつなぐことで、中山間地も平地と同様の情報管理ができ、生産効率を上げることができると考えています。
 石垣ハウスの次の展開として、試験的にマンゴーの栽培を行っており、栽培状況を比較するために学内のハウスでもマンゴーを栽培しています。仁淀川町の石垣ハウスは無加温、学内のハウスは加温で行っていますが、石垣ハウスの方が寒暖差は大きいものの、学内の加温ハウスより平均気温が高いという結果が出ています。今年9月に収穫することができたので、仁淀川町の新たな品目になれば、付加価値の高い目玉商品になるのではないかと思っています。
 投資の低コスト化、出荷回収などの問題もありますが、このモデルが定着すれば就農希望の若者にも魅力があり、中山間の過疎の問題解決の一助となります。


中小規模農家に環境制御システム導入を

  もう一つ、Next次世代型施設園芸農業に向けての課題として進めているのが、環境制御システムの低コスト化です。現在、一定の収量を上げるためには、炭酸ガスの施用は必須となりつつありますが、中小規模の農家にとっては、設備投資は大きな負担となります。
 そこで、自然冷媒ヒートポンプ給湯器と重油暖房機の併用したシステムから、ガスヒートポンプ(GHP)を利用した環境制御システムへと発展させました。ガスヒートポンプによる冷暖房を行うことで、排ガスの炭酸ガスをハウス内に供給することができます。
 学内では、ガスヒートポンプの環境制御システムを使って、イチゴの水耕栽培の実験を行っています。ガスヒートポンプによる加温、株元をあたためる夜間局所加温、炭酸ガス施用の3つを行うハウスと、加温のみ行うハウスとで生育状況を調査しています。定期的に果実数、果実重、糖度を測定していますが、炭酸ガスを施用した方が葉の繁りがよく、見た目にも生育がよいことがわかります。

 ガスヒートポンプを利用した環境制御システムの導入により、中小規模の農家は3割の増収が期待されます。こういった課題解決型のアプローチも、このプロジェクトの大きな特徴の一つです。


進化し続けるNext次世代型施設園芸農業

 「IoP(Internet of Plants)が導くNext次世代型施設園芸農業」は、10年間で野菜の産出額130億円増加、新規雇用就農者1000人増など、いくつかの数値目標(KPI)を設定しています。
 私の関わる研究の他にも、「⽣産システム・省力化技術」「高付加価値化」「流通システム・統合管理」などをキーワードに現在多くの試験研究が進行中です。それらの先端研究から得られた知見や成果をもとに、AIやIoT技術を活用した未来の農業の普及と新たな産業創出を目指しています。