高知大学 農林海洋科学部 大学院 総合人間自然科学研究科農林海洋科学専攻

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川のフィールドから1 日本の大学で初! JSに認定・実用化された次世代下水処理技術

 日本の公共下水処理場の約半数で採用されているオキシデージョンディッチ法(OD法)。このOD法を柔軟な発想で進化させ、処理水質改善とコスト・エネルギーの大幅な削減を実現させたのが「二点溶存酸素(DO)制御OD法」です。高知大学を中心とする産官学の共同研究により開発されたこの新技術が、このたび日本下水道事業団の新技術 Ⅰ 類に選定され、実用化。これは、大学としては初の快挙です。

[専門領域]

水環境工学、環境水質学、下水道工学

[研究テーマ]

省エネ型下水処理技術の開発
下水処理施設からの温室効果ガスの
 排出メカニズムの解明
酸化チタン/高シリカ型ゼオライト
 複合材料による高度水処理技術の開発
水環境保全と価値創出を同時に実現
 する農業地域の新たな資源循環
 システムの開発

二点溶存酸素(DO)制御
オキシデーションディッチ(OD)法


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 OD法とは、機械式エアレーション装置を有する無終端水路を反応タンクとして低負荷で活性汚泥処理を行い、最終沈殿池で固液分離を行う一連の下水処理技術。従来のOD法では水路内に空気を送る曝気と撹拌を同時に行う装置があり、それをタイマー運転でつけたり止めたりして反応をコントロールしていました。
 これに対し二点DO制御OD法は、水路内の2箇所に溶存酸素計を設置し、酸素濃度が所定の値になるように上流側では曝気風量を、下流側では撹拌する速度をそれぞれ独立してコントロールし、好気性と嫌気性の二つのゾーンを安定的に循環させます。
 この新しい制御システムによって、OD法の複数の課題が一挙に解決されただけでなく、より高度なレベルの下水処理が実現。今後の社会基盤整備を支える次世代技術の一つとして注目を集めています。

小規模な学生実験から徐々に
スケールアップしながら
システムを確立

野市浄化センターの反応タンク全景

曝気量を制御している好気ゾーン

 二点DO制御OD法の最初の実験は、平成12年。学生の卒業論文の一環として、1つ1.2Lほどの小さなタンクを6つ合わせた合計8Lの小さな装置を作り、人工下水を使った実験をスタートさせました。小規模ではありましたが、学生がとてもよくがんばってくれたおかげでよい結果が得られ、理論的な解析を踏まえて二点DO制御を考案。特許を取得しました。
 平成16年に、水処理の分野で最先端の知見を持つ前澤工業株式会社のサポートを得られることとなり、高知市の高須浄化センターでベンチスケール実験を開始。高須浄化センター内に容積300Lほどの実験装置を設置し、実際の下水を使って実験を進めていきました。

 その後、高知県、香南市、前澤工業株式会社、日本下水道事業団、高知大学の5者で協力し、平成22年より香南市の野市浄化センターにおいて実証実験を開始しました。当時、野市浄化センターはちょうどニつ目の反応タンクを増設するタイミング。1750トンの本物の処理場で実際に制御システムを稼働させ、導入効果を実証できたのは本当にすばらしいことでした。
 この実証実験の結果を踏まえて平成26年7月、本技術は「OD法における二点DO制御システム」として日本下水道事業団の新技術 Ⅰ 類に選定されました。これは日本下水道事業団の受託建設事業における適用性を有することが認められたということであり、今後、全国の同事業において導入が進んでいくことを意味します。既に実用化第1号として、来年度、香南市の夜須浄化センターへの導入が決定しています。
 ラボの小さな学生実験からスタートしたこの新技術。高知の進取の気質と人のつながりに恵まれ、どんどんスケールアップしながら最終的に実用化までこぎつけることができました。いずれは日本全国、そして世界へと普及・展開することを期待しています。



▶従来のOD法と比較した、二点DO制御OD法の特徴

  • 処理時間の大幅な短縮と省スペース化

    従来のOD法では24~36時間ほどかけてゆっくり処理していましたが、二点DO制御OD法ではその半分にあたる平均16.5時間で安定した高度処理が可能であることが実証されました。これは視点を変えれば、処理に必要な容量、つまり設備面積を半分にすることが可能だということ。処理速度の向上で、省スペース化も実現可能となりました。

  • 窒素とリンの除去性能の向上

    二点DO制御OD法では水路の前段に嫌気槽を設けることによって、リンの生物学的除去が可能になりました※2。また窒素除去についても、大幅にその能力が向上しています※3

    ※2 野市浄化センターでの実証実験では、処理水平均全リン濃度が1Lあたり0.6 mg(リンについては新技術 Ⅰ 類の対象外)
    ※3 野市浄化センターでの実証実験では、処理水平均全窒素濃度が1Lあたり1.3mg(OD法の全国平均は1Lあたり7mg)

  • 省エネルギーの達成

    下水処理にかかる電力の約半分は、曝気にかかる電力。それを最適にコントロールすることで、野市浄化センターでの実証実験では、実績値と比較して消費電力は67%削減しました。

  • 下水の流入負荷変動に強い

    下水処理場への下水の流入量は季節や時間帯によって増減しますが、二点DO制御OD法はそういった変動に柔軟に対応することが可能です。このことは、将来的な社会状況の変化――下水処理場の統合による一時的な処理量増加や、人口減少に伴う処理量の減少などにも対応できるということです。

  • 地域特性に応じた最適化

    従来のOD法は、日本国内のどんな気候・地理的条件でも導入可能な余裕を持った設計でした。それは、これまでは全国一律の方式によって下水道普及率を上げていくことに主眼が置かれていたため。しかし今後は地域の特徴に合った方式で水処理の効率化、高度化をはかる必要があります。その点、二点DO制御OD法は温暖な地域において、より処理時間を短縮することが可能です。

常識にとらわれていない自由な発送を大切に

 今回の技術開発において、着想から実用化までのプロセスの中で最も重要なポイントとなった点――それは、「これまでの常識にとらわれない」という視点です。そもそもOD法は、低負荷条件での運転を大前提として設計・操作条件の最適化が研究されてきた技術。しかし私たちはあえてその前提条件を取り除き、高負荷条件での検討を行うことでOD法の課題を解決し、利点を増やしていくことができました。柔軟な発想の転換こそが、この技術の出発点だと言えます。
 これからの時代は、下水道も量から質へと変化していくべきであり、質の時代の下水処理には、気候変動、エネルギー・資源の枯渇、人口減少、過疎・高齢化、災害対応といった社会的課題を同時に解決する「コベネフィットな技術」が重要です。次世代の水処理技術の方向性を、高知大学から発信していきたいと考えています。